手術を回避させる代走者
Nature Reviews Cancer
2003年6月1日
ある種の下垂体腺腫の患者にとって、治療の唯一の選択肢は外科手術である。手術後に放射線治療を行う場合も多い。ところが今回Heaneyらが、外科医のメスに代わる分子標的治療という選択肢を与える可能性があるPPAR-γ(peroxisome proliferator-activated receptor-γ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)という核内ホルモン受容体を同定した。PPAR-γは、受容体に結合するリガンドに依存して転写因子として働く。
垂体腫瘍で最も多いのはホルモン非分泌型の非機能性腺腫で、このような腫瘍の治療に有効な薬剤は知られていない。さらに、プロラクチン(PPL)および成長ホルモン(GH)分泌型腫瘍の患者でも、治療にふつうに使われるドーパミンアゴニスト(作動薬)やソマトスタチン類似物質が奏功しない場合がある。この2つの種類の下垂体腫瘍の患者には外科手術が必要になる。患者の多くが下垂体腫瘍と診断されるのは、ホルモン過分泌症候群が明らかになったときと腫瘍の直径が1 cmを超えたときだけである。そして、このような大きな腺腫を外科的に切除しても治癒率は30%前後にすぎない。外科手術はまた、腫瘍の周辺の正常な下垂体組織を傷つけ、ホルモン欠乏症になる危険にさらすことになる。ホルモン欠乏症は、併存疾患の重要な原因になる。
PAR-γの発現は、前立腺癌、乳癌および大腸癌では増大している。PPAR-γを活性化するロシグリタゾン(rosiglitazone)、トログリタゾン(troglitazone)などのチアゾリジンジオン(thiazolidinedione、TZDと略す)系薬剤を投与すると、試験管内およびマウスモデルではこれらの腫瘍の増殖が抑制される。Heaneyらが今回明らかにしたところによると、PPAR−γはヒトの下垂体腫瘍組織でも正常下垂体組織に比べて発現量が高く、試験管内と生体内でTZD類はこれらの腫瘍の増殖を抑制した。
トの非機能性下垂体腫瘍細胞、ラットのPPLおよびGH分泌性GH3下垂体腫瘍細胞およびマウスの性腺刺激性αT3下垂体腫瘍細胞をロシグリタゾンまたはトログリタゾンで処理すると、細胞周期のG0−G1期での増殖停止がもたらされ、S期の細胞数が減少した。これらの影響は、リン酸化された網膜芽細胞腫タンパク質の発現量の減少と関連があるとわかった。 TZD処理はまた、試験管内での腫瘍細胞のアポトーシスを投与量に応じて増加させた。このアポトーシスの増加は、アポトーシスを促進するBaxタンパク質の発現量の増加と関連していた。
ウス生体内モデルでは、GH3細胞を皮下注射した無胸腺ヌードマウスにロシグリタゾンを投与すると、腫瘍増殖が抑制されることが示された。ロシグリタゾン処理マウスの4週間後の腫瘍の重量は、対照マウスに比較して大幅に減少していた。重要なことは、すでに定着したαT3腫瘍細胞の増殖もロシグリタゾンによって抑制されたことだ。
口ロシグリタゾンはヒトの2型糖尿病の治療用にすでに米国で承認されているので、現在使われている薬が効かない非機能性腺腫やホルモン分泌性下垂体腫瘍の患者にとって、この薬は外科手術よりも安全性と有効性が高いといえよう。
doi:10.1038/nrc1108
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