二面攻撃
Nature Reviews Cancer
2003年7月1日
電離性放射線は腫瘍の幹細胞に直接作用して腫瘍を破壊すると一般的に認められているが、これは話のほんの一部にすぎないようだ。Richard Kolesnick、Zvi Fuksらが今回、Science誌に報告しているところによると、成長している腫瘍内部の微小血管系をなす内皮細胞も放射線治療が同じく攻撃の標的にする。内皮細胞は、体内にある他の細胞の20倍量の酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASMase)を合成している。 Kolesnickらは、スフィンゴミエリンが関連するアポトーシス経路が内皮細胞の放射線応答に不可欠なことも明らかにしている。
olesnickらは、asmase+/+マウス とasmase-/-マウスに繊維肉腫細胞または黒色腫細胞を移植し、経過を観察した。ASMaseがないと、腫瘍の増殖がずっと速くなり、内皮細胞のアポトーシスは減少した。では、これらのマウスは、毎日の多分割放射線照射法で患者が受ける線量と生物学的影響が等しい10〜20グレイの線量の放射線照射にどのように応答するだろうか。15グレイの放射線を照射した場合、asmase+/+マウスの繊維肉腫の50%が治ったのに対し、asmase-/-マウスでは腫瘍 の抑制はまったく見られなかった。asmase+/+マウスでは、照射してから最初の6時間は内皮細胞のアポトーシスの顕著な増加が見られ、その後に腫瘍応答が起こった。このアポトーシスの増加はasmase-/-マウスには見られなかった。
olesnickらは、マウスから腫瘍内皮細胞を取り出して精製し、放射線照射する実験を行い、asmase-/-マウスの内皮細胞が放射線に起因するアポトーシスに抵抗性を示すのは内皮細胞内部のASMaseを失ったのが直接の原因だと証明した。 この実験で、asmase-/-マウス由来の内皮細胞と
smase+/+マウス由来の内皮細胞の応答は、マウスの生体内での応答とそっくりだった。
外だったのは、上述の応答は20グレイ未満の放射線線量には当てはまるが、20グレイ以上の線量を照射するとasmase-/-マウスで代わりの腫瘍応答 が活性化されたことだ。asmase遺伝子が完全に欠失したマウスは、20グレイの放射線を照射した場合でさえも内皮細胞のアポトーシスを起こさなかったが、腫瘍は15グレイの放射線照射に抵抗しただけだった。20グレイの放射線を照射すると、1週間以内に腫瘍の容積が80%減少する応答が見られたのである。
たがって、内皮細胞が放射線照射後も無傷の場合、内皮細胞は低線量の放射線による死から腫瘍細胞を守っている。Kolesnickらの主張によれば、腫瘍は自分自身の微小血管系の内皮細胞の放射線応答性を調節している可能性があり、ASMaseの量を操作する戦略を開発すれば、腫瘍細胞を放射線治療に感受性にする有望な治療法になるかもしれない。
doi:10.1038/nrc1129
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