Research Highlights

激しい攻撃

Nature Reviews Cancer

2006年2月1日

遺伝子発現プロファイリングは、予後の重大性によって癌をサブグループに分類する重要な手段である。しかし、このような固有の特徴に関与する個々の遺伝子のほとんどについては、その特徴に起因する臨床表現型にどのように寄与しているのかがあまりわかっていない。Jose Moyanoらは、発癌性が見込まれるストレス応答タンパク質のαBクリスタリンと、遺伝子プロファイリングによって同定されるヒト乳癌の悪性サブグループ(基底細胞様)とのつながりを明らかにした。

基底細胞様の乳癌はエストロゲン受容体陰性かつERBB2陰性であり、全生存期間も無再発生存期間も短いが、この腫瘍型によって発現する遺伝子が、どのようにして攻撃的な性質をもたらすかについてはほとんどわかっていない。Moyanoらは、既存の乳癌のマイクロアレイデータを検討し、自身の研究室で以前から関心を寄せていた細胞ストレスタンパク質であるαBクリスタリンが、この腫瘍型に高頻度で発現していることに注目した。

αBクリスタリンは、スモール熱ショックタンパク質(HSP)ファミリーに属する。このタンパク質は、ストレスによって誘導される分子シャペロンとして機能し、細胞の生存を増進させる。αBクリスタリンが異所性に発現すると、多岐にわたるアポトーシス刺激から細胞が保護されるが、RNA 干渉(RNAi)法によってその発現を静めると、細胞はアポトーシスを起こしやすくなる。αBクリスタリンはほかにも、グリオーマ、前立腺癌および腎細胞癌に多く発現していることから、Moyanoらは、基底細胞様乳癌を用いてその潜在的な機能を探った。

Moyanoらが確認したところ、αBクリスタリンは基底細胞様乳癌試料の約半数に発現しており、これが発現していると、ほかの既定のマーカーとは無関係に、患者の生存期間が短くなると予想される。偽リン酸化変異体ではなく野生型タンパクが過剰発現すると、三次元培養系の乳腺房増殖に腫瘍性変化が誘導され、不死化したヒト乳腺上皮細胞が形質転換された。この細胞は足場非依存性増殖を起こし、in vitroでの遊走性および浸潤性が高くなり、ヌードマウスに浸潤性乳癌を形成した。偽リン酸化変異体を用いた試験では、αBクリスタリンの発癌活性は、リン酸化による負の調節を受けることが明らかにされている。

αBクリスタリンは乳腺上皮細胞をどのようにして形質転換させるのだろうか。Moyanoらは、αBクリスタリンが過剰発現すると、細胞外調節キナーゼ1 (ERK1)/ERK2タンパク質のレベルが全体でもリン酸化したものでも上昇し、ERK-MEK (マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)キナーゼ)シグナル伝達経路を活性化することを突き止めた。形質転換にはこの活性化が必要であり、 MEK阻害因子で細胞を処理すると、その悪性表現型が抑制された。αBクリスタリンは分子シャペロンであることから、Moyanoらは、HSP90がキナーゼのAKTおよびRAFの活性を調節するのと同じく、これがERK1/ERK2 の安定性またはリン酸化を調節するのではないかとしている。

Moyanoらは目下、αBクリスタリンの発現レベルが予後または薬物に対する反応の有用なマーカーとなりうるかどうかをみるため、乳癌コホートを追加してその発現を検討している。さらに、その所見は、ほかの癌の治療ですでに臨床試験の段階にあるMEK阻害因子を用いて基底細胞様乳癌患者を治療できる可能性を示している。

doi:10.1038/nrc1806

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