哺育する腫瘍?
Nature Reviews Cancer
2006年2月1日
間質細胞は、腫瘍の微小環境に寄与し、腫瘍発生に深く影響していることがわかっている。しかし、Terry Van Dykeらは最近のCell誌で、逆もまた真、すなわち、腫瘍細胞が周囲の間質細胞での変異に選択圧をかけることを明らかにしている。
癌を取り巻く間質線維芽細胞については、p53などの腫瘍抑制因子の発現を消失させる変異が含まれていることを示す証拠が、これまでにいくつか見つかっている。しかし、この消失が、腫瘍の進行中に選択されるかどうかは、これまで不明であった。Van Dykeらはさらに踏み込んで検討するため、SV40 large-T抗原のフラグメントが前立腺上皮のみに発現し、腫瘍抑制因子である網膜芽細胞腫(RB)とその関連タンパク質p107およびp130を不活化する前立腺癌マウスモデルを用いた。野生型p53をもつこのマウスを交配して、p53ヘテロ接合型およびp53ヌルの遺伝的背景を生み出し、前立腺腫瘍の発生に対するp53の影響を検討した。
p53発現消失の影響がみられたのは、なんと、上皮腫瘍細胞ではなく周囲の間質細胞であった。前立腺腫瘍はどの動物にも発生したが、 p53ヌルの動物には、野生型動物またはp53ヘテロ接合型動物よりも早期に、広範な間質組織を伴う腫瘍が発生した。このような間質の拡大は、p53ヌルの動物にみる間質線維芽細胞増殖の誘導と相関していた。以上の所見から、間質細胞の増殖はいったんp53の発現が消失した場合にのみ可能で、この増殖環境は上皮のRB機能が消失すると助長されることがわかった。Van Dykeらはこの仮説を確認するため、野生型マウスおよびp53ヘテロ接合型マウスの間質および上皮サンプルを採取し、p53の発現を分析した。そして、予想通り、RB機能の消失が上皮細胞のp53活性化を誘導していること、間質細胞のサブセットもp53活性化を呈していることを突き止めた。また、遺伝的背景がp53ヘテロ接合型であっても野生型であっても、樹立した腫瘍の増殖性間質細胞にはTrp53遺伝子消失が認められ、間質細胞ではp53の消失が選択されていることがわかる。これが、野生型およびヘテロ接合型上皮腫瘍組織のp53発現が消失する前に生じたことは重要である。
Van Dykeらは、上記試験により、上皮腫瘍細胞と周囲の間質細胞との相互作用の複雑さがさらによくわかり、腫瘍の微小環境を標的とする薬物が、癌治療に有用となりうることを示す証拠がまた増えたとの結論を導いている。
doi:10.1038/nrc1813
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