Research Highlights

お門違い

Nature Reviews Cancer

2002年8月1日

血管内皮増殖因子(VEGF)は、既知の2種類の受容体チロシンキナーゼ、FLT1とFLK1 に結合する。しかし、血管新生を阻害するたいていの薬剤は、FLK1のみを標的とし てVEGF信号経路を遮断する。これは、FLT1のチロシンキナーゼ活性が低く、またその 機能もよくわかっていないためである。ところが、Peter Carmelietほかの研究によ り、FLT1はこれまで考えられていたよりも強力な治療標的になることが明らかにされ た。

LT1はVEGFに結合するだけでなく、その相同分子である胎盤増殖因子(PGE)とVEGFB にも結合する。Flt1完全欠失マウスは血管系の欠損のため胚発生の過程で 死亡するのに対し、チロシンキナーゼ領域のないFlt1を発現するマウスは生 存することから、Flt1はもっぱら、Vegfに対する信号伝達に依存しない「備え」とし て作用するのかもしれない。ただしほかの研究では、アンチセンス法でFlt1を減量す ると腫瘍の血管新生が抑制されると示されている。

armelietらの報告では、Flt1抗体はヌードマウスにおけるヒトの類表皮腫瘍の増殖 と血管新生を阻害し、その効果は抗Flk1抗体にわずかに劣る程度だとしている。 抗Flt1抗体処置の2週間後には、腫瘍の血管密度が45%に減少した。抗Flt1抗体は同様 に、ヌードマウスにPgfあるいはVegfで誘導したラット神経膠腫の増殖と血管新生を 停止させた。意外にも、マウスで抗Flt1抗体は、アテローム性プラーク増大や自己免 疫性関節故障のような炎症性疾患の症状を抑える。

かし一般的に、これらの疾患と腫瘍の発達とにどんな関係があるのだろう。腫瘍の 血管新生にも炎症応答にも、骨髄性の前駆細胞が骨髄から末梢血管系へと移動してく る必要がある。Carmelietのグループは、このような移動を抗Flt1抗体が75%減少させ るとしており、VegfとPgfの両者が炎症部位へと骨髄前駆細胞だけでなく分化した白 血球を動員するのに関係していると提案している。抗Flk1抗体は関節炎やアテローム 性動脈硬化症を阻止しないので、血管新生のみならず腫瘍に付随する炎症も阻害でき るFlt1は、治療標的として優れている可能性がある。

doi:10.1038/nrc877

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