正しい標的に
Nature Reviews Cancer
2002年8月1日
腫瘍の血管形成を阻害する多くの薬剤が開発されているが、正常組織に影響を与えず 腫瘍の血管を特異的に標的とする薬剤の開発は難しい。David Chereshらは血管新生 に必要な内皮信号経路をふさぐ遺伝子配達戦略を開発し、この方法を定着性腫瘍およ び転移性腫瘍の破壊に用いることもできると報告している。
管形成中の上皮は治療に有効な標的となりうるいくつかの表面分子を発現する。そ の1つインテグリンαvβ3は、癌細胞の浸潤にかかわり、ウイルスの内在化を仲介す ることも示されており、これらのことから血管内皮細胞へ他のリガンドが侵入するの を仲介すると考えられ、特に有力である。ChereshらはScience誌に、低分子 有機インテグリンαvβ3リガンドに陽イオン性の重合脂質ナノ粒子(NP)を結合さ せ、これを新生血管へ治療用遺伝子を輸送するのに使えると報告している。しかし、 血管成長の防止に最も有効な遺伝子はどれなのだろうか。
管新生因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)は RAF1仲介経路を通して信号を送り、この経路が上皮細胞のアポトーシスを誘導するの を阻害する。ATPと結合できないRaf1の変異体(ATPμ-Raf)は、内皮細胞の Raf1活性を阻害し生体内での血管新生を阻害することが示されている。Chereshらは この変異遺伝子をαvβ3-NPと結合させて、αvβ3-NP/Raf(-)を作製した。定着性 M21-黒色腫を生じたマウスが1回のαvβ3-NP/Raf(-)接種を受けると、ベクターは 腫瘍血管を特異的に標的とし、24時間以内にアポトーシスを誘導した。72時間までに は各アポトーシス中の血管の周囲に同心円状の腫瘍細胞が観察され、腫瘍は壊死を起 こした。
局、処理マウスでは急速な腫瘍退行が見られた。6匹中4匹で腫瘍が完全に消失し、 残りの2匹は腫瘍質量が95%減少し、血管密度が75%抑制された。腫瘍退行は250日間以 上維持された。M21-L細胞はαvβ3を発現せず、腫瘍退行は癌細胞自身への直接の効 果というよりは抗血管新生の結果であることが示された。
かし、この治療は転移に有効なのだろうか。Chereshらは、肺あるいは肝臓への転 移を引き起こすCT-26大腸腺癌細胞をマウスに接種し、10日後にαvβ3-NP/Raf(-) を接種した。対照ベクターを接種したマウスは広範囲に肺および肝臓転移が生じた が、αvβ3-NP/Raf(-)処理マウスではこれらの腫瘍の退行と消失が引き起こされ た。NPはウイルスベクターよりも免疫原性が低いので、この分子は他の癌遺伝子治療 法よりも安全であるといえるし、また他の血管治療用遺伝子の輸送にも使用できる。
doi:10.1038/nrc870
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