Research Highlights

癌細胞がくっついちゃう

Nature Reviews Cancer

2002年5月1日

「癌細胞に警告:基質にくっつくと健康がひどく損なわれることがある」。細胞とそ の外側に存在する細胞外基質(ECM)との密接な関係は、細胞を支持したり防御した りする代わりに、DNA損傷後の細胞死に対する感受性を増大させることがある。

常細胞では、細胞とECMとの接着が失われるだけでアポトーシスが誘発されること がある。しかし、細胞の脱離が悪性化への必須段階になっている癌細胞ではどうなの か。Jean Lewisらは、Proceedings of the National Academy of Sciencesの3月 19日号に掲載された論文で、DNAに損傷を与えるaraCという薬剤で処理した線維肉腫 細胞をインテグリン(細胞とECMの接着を媒介する受容体)に連結させるとアポトー シスが増加することを示した。アポトーシスの増加は悪性転換された細胞のすべてに 見られるわけではないが、ヒトM21L黒色腫細胞や横紋筋肉腫細胞、マウス胚線維芽細 胞(MEF)などの別種の細胞も、DNA損傷に応答してこの特異な挙動を示した。そし て、アポトーシスの増加にはインテグリンが関係していた。

ンテグリンがアポトーシス感受性の原因であることを確認するため、線維肉腫細胞 をばらばらにしておき、アゴニスト(作動薬)の抗インテグリン抗体がアポトーシス 応答を回復させる能力を調べた。ばらばらにした細胞をβ1またはαvβ3インテグリ ンに結合する抗体で処理したところ、なんとこの処理だけで、araC誘導性の細胞死を 回復させた。アポトーシスの検定には、カスパーゼ活性を利用した。

は、インテグリンはどうやってこれらの影響を媒介するのか。チェックポイントタ ンパク質のCHEK1は、接着した細胞でも懸濁培養細胞でも活性化されていたので、ア ポトーシス感受性の欠損はさらに下流で起こっているに違いない。p53は、アポトー シスの誘導に重要なタンパク質である。p53はMDM2によって分解され、MDM2はARFによ って隔離される。懸濁培養細胞で見られるアポトーシス抵抗性には、これらの因子の うちの1つが関係しているのだろうか。MEFをECMから引き離すと、Arfタンパク質の濃 度が急速に減少するが、Mdm2の濃度は高いままだった。それゆえ、Mdm2によるp53の 分解は増加した。p53タンパク質の濃度はArfタンパク質よりもゆっくりとした反応速 度で減少した。p53の減少とアポトーシス抵抗性の開始との間には相関が見られた。 ところで、p53には「ゲノムの守護者」としてのもっと広い役割がある。ばらばらに した細胞を細胞障害作用をもつ因子で処理すると、ゲノムの不安定性が増すだろう か。懸濁培養で増殖させたMEFは、インテグリンを介したECMへの接着を保持している MEFに比べて、放射線照射後に染色体の再編成数の著明な増加を示した。

たがってこれらの結果を考慮し、癌治療法を再考する必要があるのではないか。接 着していない癌細胞では化学療法によってアポトーシスが誘導されないだけではな く、その治療がゲノムの不安定性を促進することによって腫瘍の進行を速めるかもし れないのだ。この挙動を示す種類の癌の場合は、従来のやり方で治療する前にインテ グリンを活性化しておくことがこの問題に対する解決策の1つかもしれない。

doi:10.1038/nrc803

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