Research Highlights

血に刻まれた隠し印

Nature Reviews Cancer

2007年8月1日

血管新生は、充実性腫瘍の極めて重要な生物学的特徴であり、抗血管新生療法が癌治療の主な戦略になってきている。しかし、現在の治療法は、(病理学的な)悪性の血管新生も(生理学的な)正常な血管新生も阻害するため、副作用をもたらす。S Seamanらは、腫瘍血管でのみ選択的にアップレギュレートされ、腫瘍血管新生の特異的標的となりうる遺伝子をいくつか特定した。

Seamanらはまず、正常マウス内皮の広範囲に及ぶトランスクリプトームの解明に着手し、さまざまなマウス組織の精製内皮細胞について、遺伝子発現の連続分析(SAGE)を行っている。そして、これらのSAGEライブラリを比較することによって、他のどの正常臓器の内皮と比較しても20倍以上アップレギュレートされた臓器特異的な(肝特異的など)内皮転写物をいくつか特定した。Seamanらは次に、正常な生理学的血管新生時に内皮細胞によってアップレギュレートされる遺伝子を特定しようとした。そこで、70%部分肝切除術から24時間後、48時間後、72時間後(肝が再生し、内皮細胞が増殖すると考えられる時間)のマウス肝から単離した内皮細胞について、SAGEを実施した。そのトランスクリプトームを正常な非増殖組織の内皮細胞のものと比較したところ、再生肝の内皮細胞で過剰発現する遺伝子が12個特定された。そのほとんどは細胞周期調節に関与しており、これらの内皮細胞が分裂する事実と矛盾しない。

悪性の血管新生時に発現が増大し、生理学的な血管新生時には増大しない遺伝子を特定するため、Seamanらは、腫瘍から単離した内皮細胞についてSAGEを実施し、そのトランスクリプトームを正常な休止状態の組織由来および再生肝由来の内皮細胞のものと比較した。比較対象となったマウス腫瘍は、マウス(CT26)またはヒト(KM12SM)由来の転移性結腸癌細胞を肝臓で増殖させた2系統と、ヒト結腸癌細胞(SW620)、マウス肺癌細胞(LLC)、マウス乳癌細胞(EMT6)のいずれかを皮下で増殖させた3系統の計5系統である。どの腫瘍の内皮細胞でも10倍以上にアップレギュレートされた遺伝子が13個あり、これが腫瘍内皮マーカー(TEM)に指定された。このTEM 13個のうち7個は細胞表面受容体をコードするもので、発現が他と最も異なっていたのがCD276であった。

ところで、このTEMはヒト癌でも過剰発現するのだろうか。in situハイブリダイゼーションによると、正常なヒト結腸粘膜でCD276 mRNAは検知されなかったが、悪性の大腸組織の血管では顕著にみられた。しかも、結腸および肺の腫瘍はCD276の発現レベルが高く、CD276抗体による染色からは、ヒトの大腸、肺、乳房、食道および膀胱の癌には血管様パターンが認められ、対応する正常組織にはこれが認められないことが明らかになった。なお、ヒト黄体(生理学的血管新生の有用な対照)でCD276が検知されなかったのは重要であり、CD276がヒト腫瘍の血管で特異的に過剰発現することがわかる。以上のことから、CD276は腫瘍特異的抗血管新生療法の有用な標的と考えられる。

doi:10.1038/nrc2199

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