地下運動
Nature Reviews Cancer
2007年11月1日
Underground movement
膵癌と診断された患者は死亡率が高く、5年後も生存している患者はほとんどいない(1~4%)。この惨たんたる転帰の理由としては、早期診断が困難である、化学療法に抵抗性を示す、転移による負担が著しいなど、さまざまなものがある。C Heeschenらは、この癌の悪性度が高いことに癌幹細胞が重要な意味もっているかどうかを検討した。
CD133は、幹細胞様の性質をもつ腫瘍細胞が好むマーカーのようで、膵癌も例外ではない。患者の腫瘍検体を検査したところ、腫瘍塊には、CD133陽性細胞がごくわずかであることが明らかになった。散在性のCD133+細胞はこのほか、腫瘍の侵襲的な最前部でも認められており、興味深い。膵腫瘍のCD133+細胞には、癌幹細胞様の特性があるのだろうか。Heeschenらは、無胸腺マウスを用い、CD133–細胞ではなくCD133+細胞に腫瘍形成能力があること、累代移植アッセイでCD133+細胞のみが組織学的に同一の腫瘍を再現することを明らかにしている。
Heeschenらは、上記細胞の特性をさらに検討するため、ヒト膵癌細胞系統に取り組み、そこにも同じ癌幹細胞様特質をもつCD133+細胞があることを確認した。この細胞は、ほかの腫瘍型の癌幹細胞様細胞増殖をも引き起こす球状集塊の形成に有利な条件下、in vitroで増殖した。またHeeschenらは、この細胞を用いて、CD133+細胞が培養下で分化し、膵腫瘍塊を成す主要な細胞型(サイトケラチン陽性細胞)を産生することを示した。さらには、CD133+細胞が膵癌治療に用いられる第一選択薬のゲムシタビン療法に抵抗性を示すことも明らかにした。
しかし、腫瘍の浸潤先端にあるCD133+細胞はどうなのか。これらは腫瘍塊の細胞と同じ特性をもっているのであろうか。末梢のCD133+細胞には、ケモカインCXCL12と結合して腫瘍の転移を引き起こすケモカイン受容体CXCR4が発現する。マウスにCD133+;CXCR4–細胞およびCD133+;CXCR4+細胞、またはCD133+ ;CXCR4–細胞のみのいずれかを同所性移植したところ、CXCR4+細胞集団で転移性増殖が起きた。実際、マウスにCXCR4阻害薬AMD3100を投与すると、転移の発生率が有意に低下した。ヒト膵腫瘍の検査からは、CD133+;CXCR4+細胞数が多い腫瘍に、進行転移癌が多いことが明らかになっている。
以上の結果からHeeschenらは、膵癌幹細胞様細胞には、原発性腫瘍の増殖を維持するCD133+細胞と、転移増殖を生む遊走性CD133+;CXCR4+細胞の2つの集団があると結論付けている。また、CXCR4-CXCL12受容体-リガンド相互作用を標的にすることが、治療法として有効ではないかと示唆している。
doi:10.1038/nrc2257
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