ゲノムから癌遺伝子をすき取る
Nature Reviews Cancer
2007年12月1日
Combing the genome for cancer genes
ゲノム全体にわたって癌を引き起こす変異を調べることができる、そんな新しい方法がある。最近実施された2つの試験では、それぞれ個々のヌクレオチドの変化とコピー数の変動から、癌ゲノムの特徴が解明された。その結果、まだ見つかっていない癌関連遺伝子が多く、また、その多くが腫瘍のサブセットに特異的であることがわかった。
Vogelsteinらは、乳癌の11検体および大腸癌の11検体の遺伝子で、Reference Sequenceデータベース(ほとんどのヒトゲノム配列を集めて統合したもの)にあるものを残らずシークエンシングした。その遺伝子18,191個のうち1,718個については、少なくとも1つの検体に非サイレント変異があった。しかし、そのほとんどがパッセンジャー変異(腫瘍形成を引き起こす原因にはならないが、この変異が生じたクローンが、のちに原因変異を獲得するもの)のようであった。Vogelsteinらは二段階法を用い、原因である可能性が最も高い遺伝子を特定できるよう、腫瘍検体を24~120個追加して検討した。この方法により、癌遺伝子の候補が280個特定された。
Vogelsteinらは、その候補を1つ1つ分析した上で、経路ごとに分類した。ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路に影響を及ぼす変異は特に多くみられたが、乳癌と大腸癌とでは変異を起こす経路の部位が異なっていたのには興味がもたれる。この試験から浮かび上がった癌のゲノム景観の全体像をみると、多くの腫瘍で変異している遺伝子(TP53など)もあるが、癌遺伝子候補のほとんどは変異頻度が比較的低く、通常は腫瘍の5 %未満であった。
Meyersonらは、一塩基多型(SNP)配列を用い、肺癌の371検体についてコピー数の変化を検討した。正常なゲノムDNAの検体と比較したハイブリダイゼーション強度を測定することによって、SNP 238,000個のそれぞれでコピー数の変化を評価した。
検体の大部分では、ほとんどの染色体腕が欠失または増幅しており、大きな10セグメントは増幅頻度が高く、16セグメントは欠失していた。しかし、この大きなセグメントについては、その欠失または増幅が原因である遺伝子を突き止めることが困難であるため、Meyersonらは次に、これよりも小さい獲得と喪失に着目した。既知の癌関連遺伝子CDKN2A、CDKN2B、PTEN、RB1を含む領域では、共通の欠失が起きていた。もう1つ、共通の欠失がみられる領域には、チロシンホスファターゼをコードする遺伝子PTPRDが含まれ、Meyersonらは、シークエンシングした検体のいくつかにPTPRDの変異を発見した。
増幅には、EGFR、KRAS、ERBB2といった既知の癌遺伝子のものもあれば、そうでないものもあった。例えば、共通の増幅のほとんどには、MBIPおよびNKX2-1を含む領域が関与していた。MBIPではなくNKX2-1をRNAiノックダウンすると、細胞の足場非依存的増殖能が低下したことから、NKX2-1が新規癌遺伝子であることがうかがえる。興味深いことに、NKX2-1は肺胞細胞の系譜決定因子である。
上記の2つの試験からは、特定されていない癌関連遺伝子が多いこと、またその多くが比較的少数派の腫瘍の中で重要になってくることがわかる。シークエンシングおよびSNPアレイといったゲノム技術は、そうした遺伝子を特定する効果的な手段となる。
doi:10.1038/nrc2279
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