四方八方からの攻撃
Nature Reviews Cancer
2008年1月1日
Attacked from all sides
局所接着キナーゼ(FAK、PTK2ともいう)は、非受容体タンパク質チロシンキナーゼであり、卵巣癌など、これが過剰発現している腫瘍は多く、臨床転帰の見通しは暗い。FAKは腫瘍由来内皮細胞でも過剰発現しており、腫瘍細胞および微小環境を同時に狙い打つ方法として食指が動く。A Soodらは現在、タキサン(ドセタキセル)に抵抗性を示す卵巣癌マウスモデルにおいてでさえ、低分子FAK阻害因子TAE226が有効であることを明らかにしている。
腹腔にHeyA8卵巣腫瘍のあるメスのヌードマウスに対して、対照としての生食水投与、TAE226の連日経口投与、ドセタキセルの週1回腹腔内投与、TAE226とドセタキセルとの併用投与のいずれかを実施した。全身腫瘍組織量はTAE226またはドセタキセルのいずれかにより54~79%低下し、併用では89%の低下がみられた。タキサン類をはじめ数種類の化学療法剤に抵抗性を示すHeyA8細胞系を同モデルに用いた場合、TAE226単独での腫瘍の増殖低下は46%、ドセタキセル単独では無効であったが、TAE226とドセタキセルを併用すると85%の低下が認められた。また、TAE226とドセタキセルの併用では転移が抑えられ、マウスの生存期間が延長した。なお、卵巣腫瘍の定着から2週間後に併用療法を開始しても腫瘍退縮が60%と高かったことは、特筆に値する。
では、ここにはどのような機序が関与しているのだろうか。予想通り、TAE226によってリン酸化FAKのレベルは抑えられた。また、FAK阻害因子は腫瘍細胞の増殖抑制、微小血管密度の低下、血管内皮増殖因子(VEGF)とマトリックスメタロプロテイナーゼ9の発現減少(血管新生の抑制を示唆)のほか、内皮細胞のアポトーシスを引き起こした。併用療法の効果は、いずれかの単独療法よりも高かった。FAKには血管平滑筋細胞の遊走に果たす役割があることがわかっているため、Soodらはさらに、TAE226が成熟した腫瘍血管系にも影響を及ぼすかどうかを検討した。その結果、TAE226が周皮細胞によるマウス腫瘍の成熟血管の被覆を減少させることを突き止めた。周皮細胞は刺激を受けてVEGFを局所的に産生することで腫瘍由来内皮細胞を保護すると考えられるが、TAE226は刺激にかかわらず、周皮細胞様10T1/2細胞によるVEGFの産生を遮断した。
以上の試験から、FAKが卵巣癌の重要な治療標的であり、そのキナーゼ活性の阻害が有望な方法であることがわかる。
doi:10.1038/nrc2304
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