幹細胞を感作する
Nature Reviews Cancer
2008年4月4日
Sensitizing stem cells
放射線治療をしても、少数のがん幹細胞には抵抗性があり、再発する可能性がある。今回報告された論文では、放射線治療は増殖性の髄芽腫細胞ではアポトーシスを引き起こし、髄芽腫幹細胞では細胞周期の停止のみを引き起こすが、低分子阻害因子を用いればこの差を縮小できることを示している。
論文著者のD Hambardzumyanらは、野生型p53(放射線治療に対する反応に関与する)をもつ数種類のマウスモデルを選択し、実験を行った。それぞれのモデルマウスを組織染色すると、明らかに異なる3種類の細胞集団が浮かび上がった。1つめは幹細胞マーカーであるネスチンが発現し中程度に増殖する血管周囲ニッシェ、2つめは腫瘍塊中で非常に増殖する細胞集団、そして3つめは腫瘍塊中にあるがあまり増殖をしない細胞集団である。これらの細胞集団に治療当量の放射線を照射したところ、腫瘍塊中で著しく増殖する細胞のみにアポトーシスがみられた。これに対しネスチンが発現する細胞は、照射から6時間以内に細胞周期がいったん停止したが、72時間後に増殖を再開した。
この作用を分子レベルで調べるため、Hambardzumyanらは、候補となる数種のタンパク質の発現に着目した。放射線を照射すると、治療効果のないネスチン発現細胞のAkt経路が活性化し、さらに分析すると、細胞周期の停止がAkt経路の調節因子PTENに依存していることが明らかになった。ところが、アポトーシスにはPTENの発現欠失が伴っていた。アポトーシスを起こした細胞および細胞周期が停止した細胞ではp53レベルが高かったが、興味深いことに、両細胞のp53誘導のタイミングは異なっていた。
細胞周期が停止する幹細胞は、放射線治療において明らかに問題となる。そこでHambardzumyanらは、低分子阻害因子ペリホシンでAktを阻害することでネスチン発現細胞の感作を試みたところ、アポトーシスが有意に増大した。今回の結果は、放射線治療に抵抗性を示す幹細胞にAktシグナル伝達機構がかかわっていることを示しており、放射線治療の有効性を改善させるために必要な今後のアプローチが指し示されたのである。
doi:10.1038/nrc2358
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