Research Highlights

癌遺伝子は眠らない

Nature Reviews Cancer

2008年5月1日

An oncogene becomes RESTless

REST(リプレッサーエレメント-1サイレンシング転写因子)は、神経幹細胞の自己複製の維持に関わる転写抑制因子で、神経幹細胞では癌遺伝子でありながら、上皮組織では腫瘍抑制因子であるという、逆説的な特徴が明らかにされている。RESTがどのようにして上記活性を両立させ、どのようにして細胞シグナル伝達経路に組み込まれているのかはわかっていない。Natureに発表されたWestbrookらおよびGuardavaccaroらの論文2報では、RESTとユビキチン-プロテアソーム系および細胞周期の調節とを結びつけ、RESTのこの二面性を示唆する新規経路が報告されている。

RESTの発現は、幹細胞が分化して神経幹細胞および前駆細胞になると減少する。これについては、RESTの半減期が1/3になることが原因と考えられ、翻訳後調節を受けていることがわかる。Westbrookらは、RESTがK48ポリユビキチン化(プロテアソームによる分解につながる)されており、これがSCFユビキチンリガーゼ複合体の成分であるキュリン1に依存することを突き止めた。SCFユビキチンリガーゼはFボックスタンパク質により特異的な基質群を標的にする。WestbrookらとGuardavaccaroらはいずれも、RESTのポリユビキチン化およびその後のプロテアソームによる分解に関与するFボックスタンパク質として、βTRCP1(またはBTRC)およびβTRCP2(またはFBXW11) (両者は類似していることから合わせてβTRCPともいう)を同定した。Guardavaccaroらは、RESTが細胞周期依存的に発現し、G2期および有糸分裂期にβTRCPプロテアソーム依存的に分解されることも明らかにしており、実に興味深い。

βTRCPはほかのFボックスタンパク質と同じく、特異的配列(ホスホデグロン)のセリン/スレオニンリン酸化を通じてその標的を認識し、結合する。Westbrookらは、RESTのC末端付近にホスホデグロンがあるのを突き止めたが、これはβTRCPの結合および分解に必要であった。また、大腸癌細胞系由来のRESTフレームシフト(REST-FS)変異体はホスホデグロンをもたないためにβTRCPによる結合が起こらず、タンパク質の安定性が増して、発現レベルが高まることも明らかにした。

では、RESTの発現の変化はどのような意味をもつのだろうか。Westbrookらは、βTRCPが過剰発現するとRESTの発現が減少し、乳腺上皮細胞では足場非依存性増殖が増大することを示した。さらに、RESTの発現が回復すると、βTRCPを介する形質転換が抑制されることも明らかにしており、RESTが腫瘍抑制因子として機能し、βTRCPの発癌活性の標的となっていることがわかる。Guardavaccaroらは、細胞周期を通じたRESTの発現変化について調べ、RESTがG2期およびM期に分解されるとMAD2(またはMAD2L1)の発現が増大すること、RESTがMAD2プロモーターの共通配列と結合することを突き止めている。MAD2は紡錘体チェックポイント機構の成分として極めて重要であり、紡錘体の動原体微小管が姉妹染色分体に結合するまで有糸分裂が進行しないように働く。これと一致して、Guardavaccaroらは、RESTのホスホデグロン変異体(分解されない)の異所性発現が、遅滞染色体、染色体橋、姉妹染色分体の早期分離など、染色体の不安定性の増大につながることを示した。このことは、REST-FS大腸癌細胞にも当てはまり、RESTには染色体不安定を引き起こす発癌活性もあることがわかる。

こうした細胞周期依存性の腫瘍形成は、特別なものではない。転帰は組織特異的のようであるが、βTRCPには発癌活性(CDC25A、βカテニン、EMI1など)または腫瘍抑制活性(IκB、PDCD4、WEE1など)のいずれかを有する多数の標的がある。このため、このような2つの側面をもつタンパク質を、どうすれば効率よく治療標的にできるのか、という疑問がわいてくる。

doi:10.1038/nrc2378

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