混ぜ合わせ
Nature Reviews Cancer
2008年8月1日
Mixed up
急性骨髄性白血病(AML)にも急性リンパ球性白血病(ALL)にも、混合型白血病(MLL)遺伝子の再編成がよくみられる。しかし、MLL関連白血病においては、白血病幹細胞(LSC)の性質も環境的要因の影響も、あまりわかっていない。James Mulloyらは最新の研究で、この問題を解決しようとしている。
Mulloyらは、MA9細胞(CD34陽性ヒト臍帯血[CB]細胞にMLL–AF9融合遺伝子を導入したもの)を用いて、この細胞が不死であり、培養条件によって骨髄性またはリンパ球性のどちらかの表現型となることを示し、系譜決定に培養条件が寄与していることを明らかにした。また、MA9細胞を非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NS)のマウスに注入すると、AMLおよびALLの両方が発生した。しかし、ヒトサイトカインの幹細胞因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン3が発現するトランスジェニックNSマウスにMA9細胞を導入した場合には、疾患が骨髄性の表現型に偏ったばかりでなく、悪性度が増し、サイトカイン環境が系譜指定に役割を果たすことが裏付けられた。
Mulloyらは、MLL–AF9白血病におけるLSCの性質に関してさらに詳しく調べようと、1回のCB形質導入に由来する骨髄性およびリンパ球性の細胞系をβ2-グロブリン欠損NSマウスに注入し、AMLおよびALLそれぞれの発生を誘発した。すると、興味深いことにAMLとALLとの間で少なくとも1例のクローン同一性が確認され、LSCが多能性で、骨髄性とリンパ球性双方の系譜を拡大させ、表現型が異なる2種の疾患のその後の発生を促進する可能性が示唆された。しかし、さらに実験を進めると、系譜を限定したLSCもMLL–AF9の標的になることが確認され、混合型白血病におけるLSC内の多様性が明らかになった。
マウスLSCが、どの程度ヒトの疾患と同様の病態となることができるのかは、いつも疑問となる。上記の実験的白血病は、どの程度の厳密性でヒトMLL原発性白血病を再現しているのだろうか。今回、マイクロアレイベースの方法により、MA9細胞の転写プロフィールと、MLL融合遺伝子をもつAML患者の白血病細胞の転写プロフィールは、類似度がきわめて高いことが明らかになった。Mulloyらは、自らのマウスモデル系の有効性が確認されたことから、MLL融合タンパク質の下流にあるシグナル伝達経路を特定しようとした。最新の研究のより、MA9細胞で過剰に活性化していることがわかった低分子GTPアーゼのRacは、明らかにその候補と考えられた。そこでMulloyらは、低分子阻害物質である短鎖ヘアピンRNAを用いてMA9細胞のRacを阻害した。すると、細胞周期停止およびアポトーシスが引き起こされ、同時にBCL-XLの分解が増大することを示した。以上の知見から、Mulloyらは、RacがMLL–AF9白血病治療の重要な治療標的になりうると主張している。
doi:10.1038/nrc2445
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