VEGFR3がメンバー入り
Nature Reviews Cancer
2008年9月1日
VEGFR3 joins the crew
腫瘍治療において、血管内皮増殖因子(VEGF)およびVEGF受容体2(VEGFR2、KDR)を標的とする治療は成功をおさめてきたが、抵抗性が獲得されることも少なくない。このような状況において、VEGFR3 (FLT4)の遮断は、代替法として有効なのだろうか。最近の論文2報で、その可能性にスポットライトが当てられている。
成人ではVEGFR3の発現は、リンパ上皮に限られる。しかし、腫瘍血管系ではVEGFR3の発現がみられ、その活性を標的にすれば、血管新生が阻害され、腫瘍形成が遅延することがわかっている。TammelaらはNatureで、マウス網膜のVEGFR3を阻害すると血管網の密度が低くなり、内皮の新芽部および分岐点の数も減少することを明らかにした。腫瘍の血管では、免疫染色によって内皮新芽部のVEGFR3発現レベルが極めて高いことが示され、肺がん異種移植片では、VEGFR3の遮断によってVEGFR3陽性の内皮新芽部の数が減少したことから、VEGFR3関連血管新生の阻害は、内皮の新芽形成の抑制に依存するという考えが裏付けられた。
Tammelaらはこのほか、VEGFR3およびVEGFR2のリガンドの過剰発現には、血管新生を助長する上での付加作用があるが、VEGFR3特異的リガンドだけでは血管新生の誘導に不十分であることを突き止めている。これより、血管がVEGFR3のリガンドに応答しやすくなるには、VEGFR2のシグナル伝達が必要であることがわかる。しかし、ひとたびVEGFR3のシグナルが伝達されると、その作用はVEGFR2を遮断しても続くことが示された。また、ノッチシグナル伝達が途絶すると、血管系での新芽形成およびVegfr3の発現が増大することもわかっており、Tammelaらは、腫瘍のVEGFR2またはVEGFR3の遮断が、ノッチシグナル伝達の消失が引き起こす血管過形成を妨げることを示している。さらには、ノッチシグナル伝達の少ないマウスで、VEGFR3タンパク質およびmRNAのレベルが高いことを突き止め、この動物に抗VEGFR3抗体を注射したところ、内皮の新芽形成の増大が部分的に弱まった。
血管新生の阻害は腫瘍の増殖を抑制し、リンパ管新生の阻害は転移巣の形成を抑制する。Jainらは、VEGFCが過剰発現する線維肉腫細胞系由来の腫瘍において、VEGFR2およびVEGFR3のチロシンキナーゼ阻害剤であるセジラニブおよびバンデタニブが腫瘍の増殖と転移の過程に及ぼす作用を検討し、Molecular Cancer Therapeuticsに報告している。両薬剤とも腫瘍増殖を有意に遅らせ、腫瘍内血管の密度を低下させた。いずれの薬剤も所属リンパ節に既に播種している腫瘍細胞の増殖には影響を及ぼさなかったが、セジラニブを投与した動物ではリンパ行性転移の発生率が低かった。すなわち、腫瘍周辺のリンパ管径は小さく、リンパ節に到達した腫瘍細胞が少なかったのである(どちらの過程もVEGFCの過剰発現により増大した)。セジラニブは、VEGFCが過剰発現していない同じ細胞系にはほとんど作用せず、リンパ管新生による転移を未然に防ぐ上で有用であることがうかがえた。これは、セジラニブが腫瘍リンパ管新生を阻害するというHeckmanらの最近の結果(Cancer Research)と一致している。一方バンデタニブは、原発腫瘍増殖の抑制に関してはセジラニブより効果的であるが、リンパ行性転移に対しては作用しない。Jainらが以前に、VEGFR3を標的とする抗体に転移を阻害する作用があると突き止めたことを考えると、これは驚きであった。原因としては、バンデタニブが血管から間質を経てリンパ管へ輸送される効率が悪いか、またはこの薬物がリンパ管でVEGFR3のシグナル伝達を効果的に遮断しないかのいずれかが考えられる。このように、セジラニブとバンデタニブとの作用の違いから、リンパ行性転移は、血管ではなくリンパ管のみに影響を及ぼすことによって抑えられることがよくわかる。
上記の両試験とも、抗VEGF/VEGFR2療法薬と併用した場合、血管系のVEGFR3阻害が原発腫瘍の反応を改善する可能性を示しているが、リンパ行性転移に対するこれらの薬剤の作用を理解するには、さらに研究を重ねる必要がある。
doi:10.1038/nrc2446
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