生まれを知る
Nature Reviews Cancer
2008年10月1日
Understanding one\\\'\'s origins
腫瘍の起始細胞の捜索は重要である。というのも、その起源を特定することにより、正常細胞と悪性腫瘍細胞との比較が容易になり、新しい治療薬の開発につながるからだ。このほど、2つの研究グループにより、小脳の発生に必要なソニックヘッジホッグ(SHH)—Smoothened(SMO)経路の脱制御で誘導される、家族性と散発性の両方の髄芽腫について、起始細胞の解明に大きな進展があったことが、Cancer Cellに報告された。
髄芽腫は小脳に生じる。小脳は、星状細胞、プルキンエ細胞、介在ニューロンおよび乏突起膠細胞といったさまざまな種類の細胞からなっている。このうち、これまでの研究により、小脳顆粒ニューロン前駆細胞(CGNP)が髄芽腫の起始細胞と考えられており、このことから、両グループはともに、CGNPに的を絞って実験を行った。
Yangらのグループはまず、CREリコンビナーゼを用いて、CGNPで活性なMath1エンハンサーエレメントによって推進される、SHHシグナル伝達のリプレッサーpatched(Ptch1)を欠失させた。すると、Ptch1の欠失が胎児で生じても、生後に生じても、髄芽腫が形成された。Math1エンハンサーは、脳幹および小脳核のニューロンになる前駆細胞でも活性化しているが、これらの前駆細胞でPtch1が不活性状態の場合には、動物に腫瘍は認められなかった。
次に、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)のプロモーターを用いてCREの発現を制御し、ニューロン、乏突起膠細胞および星状細胞といったさまざまな種類の細胞に分化できる神経幹細胞のPtch1を不活化した。その結果、興味深いことに、顆粒球系統になることが決まった細胞のみが大幅に増殖し、星状細胞、乏突起膠細胞といった非顆粒球の増殖は正常であった。この場合でも、実験動物は、分化先が決まったCGNPでPtch1を不活化した場合と潜伏期間および増殖指数が著しく類似した小脳の腫瘍を生じた。以上の知見から、SHHを介して髄芽腫が発生する場合、CGNP系統に限定されることが必要であると示唆された。
Schü【特殊文字Uウムラウト】llerらは、別の方法を用いた実験をしているが、Yangらとほぼ同じ結論に達している。彼らは、構成的に活性化しているSHHシグナル伝達(またはPtch1消失)によく似た表現型を示すSmoアレル(SmoM2)を用いて、実験を行った。SmoM2型マウスを使用して、In vivoで発生段階の脳の6種類の細胞集団、すなわち、GFAPを発現している多能性細胞集団、OLIG2を発現している多能性細胞集団、Math1、あるいはTlx3、あるいはGli1を発現している分化先の決まったCGNP、Shhを発現しているプルキンエ細胞について調べたのである。その結果、プルキンエ細胞を対象にしたマウスを除き、いずれのマウスコホートにも髄芽腫の組織学的特徴をもつ腫瘍が発生した。このことはYangらの知見と一致しており、免疫組織化学的検査および発現プロファイル分析の両方から、異なる腫瘍セット間の驚くべき類似性が明らかになった。そして、これらの細胞に由来する腫瘍は、その起源が異なっていても似た表現型に収束することがわかった。
上記の両試験では、多能性細胞でも分化系統が限定された細胞でも髄芽腫は発生しうるが、CGNP様細胞は、必ず、髄芽腫細胞集団の大部分を構成していることが明らかになった。確かに、多能性神経幹細胞でSHHが活性化していても、髄芽腫以外のほかの種類の脳腫瘍の形成はいずれの試験でも観察されていない。以上より、SHHシグナル伝達経路が活性化しているCGNPは、いずれにしても独特な細胞状況をもたらし、こうしたSHHシグナル伝達の脱制御(将来的には治療に有利に利用できる脆弱性)が発がん作用に対する細胞の感受性を著しく高めるにちがいないと思われる。
doi:10.1038/nrc2506
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