ノックアウト!
Nature Reviews Cancer
2008年11月1日
It's a knockout!
p53相同体TAp73に腫瘍抑制機能があると考える研究者たちは、TAp73特異的ノックアウトマウスに関する最近の分析結果を受け、そろって安堵のため息をついた。
このタンパク質ががんに果たす役割を詳しく知ろうと奮闘するも、Trp73遺伝子座がコードする複数のタンパク質産物が、転写活性を示す「p53様」アイソフォーム(TAp73と総称される)と、そのドミナントネガティブな「宿敵」、発がん性アミノ欠失タンパク質(ΔNp73と総称される)の2種類に分けられるという事実に、阻まれてきた。TAp73の腫瘍抑制機能を支持するグループは大いに不満であったが、そのアイソフォームについては、p53との間に配列相同性以上の共通点を立証することが困難であることが判明した。というのも、がんにTP73遺伝子の変異がみられることはまれで、なおかつ、どちらのグループのアイソフォームもないTrp73ノックアウトマウスには、腫瘍が生じにくいためである。このノックアウトマウスに腫瘍が発生しないのは、同時にΔNp73がないためであるとする見方が多かったが、アイソフォーム特異的ノックアウトがない以上、理にかなった説明は難しかった。
しかし、Genes and Developmentに発表されたTomasiniらの最近の研究で、TAp73に腫瘍を抑制する機能が実在することが示された。TAp73特異的ヌルマウスを(エクソン2および3を欠失させて)作製したところ、野生型同腹仔の腫瘍発生頻度がわずか6%であったのに対し、TAp73ヌルマウスでは73%であった。しかも、TAp73が欠損している場合、発がん物質のDMBAを腹膜内投与してから大腸、肝、小腸および胃に腫瘍が生じるまでの潜伏期間が、有意に短縮した。このことから、TAp73には単独でがん化を阻害する作用があることがわかった。
では、TAp73は、どのように腫瘍抑制機能を働かせているのだろうか。興味深いことに、機序を推定する手がかりとなったのは、TAp73欠損コホートの不妊であった。TAp73欠損では、卵母細胞に紡錘体異常が目立ち、ゲノム安定性の維持におけるTAp73の役割が示唆された。この仮説と一致して、有糸分裂阻害薬ノコダゾールで処理したTAp73欠損マウスの胚線維芽細胞(MEF)は、細胞周期のG2/M期に停止せず、不適切な有糸分裂を続けた。さらに、ノコダゾールの長期投与により、TAp73欠損細胞に8Nの細胞集団が現れた。これは対照群にはみられなかったものである。さらに極めて重要なことに、その後の実験により、肺組織が胸腺組織に比べ、特にTAp73消失後に異数性となりやすい(TAp73ヌルマウスの肺腫瘍頻度が高いことを考えれば、説得力のある所見である)ことがわかり、こうした作用が組織特異的であることが示された。
この研究では、TAp73の作用が腫瘍形成にとどまらずゲノム保全にまで及び、がんおよび不妊の両分野に影響を及ぼすとしている。今回の成果より、TAp73が腫瘍抑制因子かどうかという疑問には、一応の終止符が打たれたようである。しかし、TAp73が、紡錘体の集合体に影響を及ぼしているのか、それとも細胞周期または有糸分裂の融合タンパク質を調節しているのか、という新たな疑問が浮上してきた。しかも、これらのデータは、遺伝的不安定性、異数性とがんのつながりに関して、いまだに続いている議論に、さらなる影響を与える。おそらく、TAp73は今後も議論を呼び続けるタンパク質の1つなのだろう。
doi:10.1038/nrc2527
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