動いて働く
Nature Reviews Cancer
2009年1月1日
Moved to act
低分子量GTPasesのRhoファミリーは、細胞運動の調節に重要であることがわかっている。Cellに発表されたChris Marshallらの最近の論文では、RacおよびRhoの活性化の違いによって、細胞のとる運動の種類が決まることが明らかにされている。
個々の腫瘍細胞は、アメーバ様運動(細胞は円形で、迅速に向きを変え、タンパク質の分解をあまり必要としない)で移動するか、間葉系細胞(長く伸び、移動方向に極が定まっていて、細胞外マトリックスを通過するのにプロテアーゼ産生を必要とする)として移動する。Marshallらは、低分子干渉RNA(siRNA)スクリーニングにこの形態の差を利用し、Rho GTPase機能を調節するグアニジンヌクレオチド交換因子(GEF)およびGTPase活性化タンパク質(GAP)を特定した。そして、主にアメーバ様運動を呈するメラノーマ細胞系統をスクリーニングし、dedicator of cytokinesis 3(DOCK3)のノックダウンによって伸長細胞が現れにくくなることを確認した。DOCK3はRac GEFであることから、Marshallらは、細胞をアメーバ様運動から間葉系運動、またはその逆へ変換する際のRacの機能を調べた。その結果、RAC1をサイレンシングすると伸長細胞が消失し、そのうえドミナントネガティブRAC1感染細胞は丸い形状のみを示した。さらに実験を重ねたところ、Racを活性化すると細胞が伸長して間葉系運動が起こること、それにはDOCK3と、ドッキングタンパク質p130casファミリーのメンバー、NEDD9(メラノーマ転移遺伝子の可能性が高い遺伝子によってコードされているタンパク質)が必要であることがわかった。
既にこれまでの結果より、アメーバ様運動にRac活性の抑制が必要である可能性が示されており、またこの種の運動にはRhoキナーゼ(ROCK)の活性化が必要であることから、Marshallらは、ROCKのRac GAP下流がRac活性の抑制に関与しているかどうかを調べた。GAPのsiRNAスクリーニングの結果、ARHGAP22を阻害するとメラノーマ細胞が伸長し、これに伴ってRac活性が高まることが明らかになった。これと一致するように、Marshallらは、活性化状態のRAC1が発現する伸長細胞で、Rho–ROCK経路によるミオシンL鎖(MLC2)のリン酸化が少ないことを突き止めた。さらに詳細に調べると、Rac下流で機能するWAVE2がMLC2活性の抑制を仲介していることがわかった。したがって、NEDD9-DOCK3-Rac経路の活性化は、MLC2活性化の抑制により、アメーバ様運動を犠牲にする形で間葉系運動を促すと考えられる。
こうした結果は、がん細胞の運動および浸潤とどうかかわっているのだろうか。重要なのは、NEDD9-DOCK3-Rac経路を遮断すると間葉系運動は抑制されるが、細胞はアメーバ様運動で細胞外マトリックスへの浸潤を続けることである。細胞運動および浸潤を抑えるには、ROCK-ARHGAP22経路もNEDD9-DOCK3-Rac経路も遮断しなければならない。しかも、DOCK3またはRAC1のいずれかを標的にするsiRNAが発現する間葉性転移メラノーマ細胞を尾静脈に注入したところ、対照と比較して肺への定着が多く、アメーバ様の細胞挙動の方が転移成立に効率的であることが示唆された。
Marshallらは、メラノーマ細胞の運動様式が決まるにはNEDD9、DOCK3およびARHGAP22の発現レベルが重要であり、両運動方法間の切り替えによって、この細胞のin vivoでの可塑性が高まると結論づけている。
doi:10.1038/nrc2564
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