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Nature Reviews Cancer

2009年1月1日

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ほとんどのがんでは、化学療法が最も一般的で信頼できる治療であるといえるかもしれない。しかし、投薬後に細胞内で生じる現象について、実際我々は、どれだけ知っているのだろうか。Ariel Cohenらは「十分に知っているとはいえない」としている。彼らの主張によれば、投薬に対するタンパク質動態を明確に理解できれば、薬剤がどのように機能するかのみならず、なぜ同一細胞でも投与後の応答が異なるのかに光明を投じることになるだろうという。この考えに基づいて、Uri Alonの研究チームは最近、薬剤処理後の個々のタンパク質について、高い時間解像度をもつすばらしいシステムを立ち上げた。

ArielらはH1299ヒト肺がん細胞系を用いて、1,200個以上の単一細胞クローンのライブラリーを構築した。各クローンでは、細胞内部の染色体から、異なる蛍光を発する標識タグの付加されたタンパク質を発現している。このクローンをそれぞれ培養し増殖させて、カンプトテシンの存在下で48時間インキュベートした。その後、蛍光顕微鏡法を利用して、標識したタンパク質それぞれについて、リアルタイムで濃度(蛍光シグナルの強さにより測定)および位置の変化をモニタリングした。

その結果、最初に応答が認められたタンパク質の1つがトポイソメラーゼ1(カンプトテシンの標的分子)であることがわかった。トポイソメラーゼ1は迅速に分解され、そのうえ局在が核小体から細胞質に変化していた。このことは、これまでの報告内容と一致し、非常に満足のいく結果であった。カンプトテシンはDNA切断を誘導するとされているが、全体として、転座は比較的まれであった(カンプトテシン処理後に位置を変えたタンパク質の約2%)。しかしArielらは、これらのタンパク質が転写阻害剤アクチノマイシンDに反応して、よく似た動態を示すことから、カンプトテシンは転写阻害によっても機能するのではないかと考えた。

さらに、カンプトテシン処理後、細胞死経路にかかわるタンパク質を含む、多くのタンパク質の動態が細胞間で大きく異なっていた。これは生物学的に意味があるのだろうか。この疑問を解明するために、Arielらは、このような細胞間の違いが細胞の運命と関連しているかどうかについて調べた。そして、カンプトテシン投与後のRNAヘリカーゼDDX5および複製因子RFC1レベルの低下が細胞死と強くかかわっており、そのようなレベルの低下がみられなかった細胞は、生き残る傾向があることを突き止めた。しかも、低分子干渉RNAを介したDDX5活性の下方制御により、カンプトテシンによる細胞死が2~3倍になることがわかった。これらを考え合わせると、カンプトテシンに対する細胞の耐性には、RNAヘリカーゼDDX5レベルおよび複製因子RFC1レベルが関与していることが示唆される。しかし、それぞれの役割を正確に明らかにするには、さらなる実験が必要である。

Arielらは、こうした研究戦略により、薬剤の空間的、時間的作用に関して、個々のタンパク質のレベルで重量な知見が得られるとしている。こうした知見は、薬剤の機能や細胞の薬剤耐性をより深く正しく理解するには不可欠である。このためには、さらに研究を重ねることが必要なのは、疑いの余地のないことである。そして、Arielらが歩み出した研究の方向性は、正しい道だといってよいだろう。

doi:10.1038/nrc2567

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