Research Highlights

Aktは両刃の剣である

Nature Reviews Cancer

2009年2月1日

Akt: a double-edged sword

ヒトのがんでは、セリン/スレオニンキナーゼであるAktの過剰な活性化が高頻度に起こる。今回、挑戦的な研究により、Aktの弱点が浮かび上がってきた。腫瘍細胞は増殖し、アポトーシスから回避するために、Aktを活性化させるが、一方では、こうした作用により、酸化的ストレスによる老化やアポトーシスを起こしやすい状態になっている。

このほど、Veronique Nogueiraらのグループは、AKT1とAKT2のダブルノックアウトマウスの初代線維芽細胞の寿命を調べ、これらの細胞は野生型細胞よりも遅れて老化が起こることを発見し、Aktが寿命や老化の制御を行っていることを示した。これまでの研究で既に、活性酸素種(ROS)がこれらの過程を制御していることが示されていたため、Nogueiraらはこのダブルノックアウト細胞におけるROSのレベルを調べてみた。すると、野生型細胞よりも顕著に低下していることがわかった。Aktは、ROSの産生を増加し、Aktを発現している細胞の老化を促進する。NogueiraらはAktの下流のエフェクター分子に着目し、AktによるROSの蓄積や老化が、フォークヘッドボックスO(Foxo)ファミリー転写因子を介していることを明らかにした。Aktはセストリン3(sestrin 3)などの抗酸化因子によるROSの除去を障害するが、その機序はこれらの遺伝子のFoxo介在性の転写をAktが阻害することによる。

また、活性型Akt(ミリストイル化Akt)はさまざまな刺激によるアポトーシスを阻害できるが、活性酸素誘導剤によるアポトーシスは阻害できないことも見いだした。さらに、AktはROSの細胞内レベルを増加させ、ROSの除去を障害するため、活性型Aktを発現している細胞はROSによる細胞死を誘導しやすいことを示した。

Nogueiraらは、このROSによる細胞死の誘導が増強している性質を、治療に利用できると考えた。そしてこの仮説を実証するために一連の実験を行い、活性酸素誘導剤であるフェニルエチルイソチオシアネート(PEITC)が、活性型Aktを発現している細胞を選択的に殺すことが可能であることを示した。次に、細胞増殖抑制効果をもつmTOR阻害剤の1つである、ラパマイシンの効果を検討した。ラパマイシンは特定の条件下でAktを活性化することが既に示されていた。その結果、ラパマイシン単独では細胞死は誘導されなかったが、PEITCとラパマイシンを併用すると、過剰に活性化したAktを発現しているマウス線維芽細胞やヒトの神経膠芽腫、卵巣がん細胞株において細胞死が誘導された。さらにヒト卵巣がんを異種移植したマウスモデルにこの方法を適用したところ、PEITCあるいはラパマイシン単独投与では腫瘍増殖の抑制は軽度であったが、両者を併用した場合、相乗的に働き、腫瘍が完全に排除された。このような結果は、トポイソメラーゼ阻害剤であるエトポシドのような薬剤で、アポトーシスを誘導するがん治療の場合と対照的である。こうした治療では、本研究や別のグループによる研究において観察されているように、通常、Aktの過剰な活性化により抵抗性が増しているのだ。

さらに、酸化的ストレスとラパマイシンを組み合わせる方法は、がん治療の臨床治験におけるラパマイシンアナログの使用上の問題を解決することにつながるであろう。ラパマイシンが誘導するAktの過剰な活性化は、ラパマイシンによって治療するがんに抵抗性を生じるかもしれないが、Nogueiraらが報告した併用療法は、この現象をうまく利用している。そのため、Aktが活性化していないがん細胞に対しても応用が可能であると考えられる。

doi:10.1038/nrc2586

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