Research Highlights

コピーミス1個でバランスが崩れる

Nature Reviews Cancer

2007年10月1日

TIP60は、MYCおよびp53を同時に調整し、MYCによるDNA損傷応答(DDR)を調節するアセチルトランスフェラーゼである。新たに実施された試験では、Tip60のコピーが1つ消失すると腫瘍形成が起こること、また、これがDDRの阻害に起因し、p53とは無関係であることが明らかにされている。

ホモ接合型Tip60ヌルマウスは生存不可能であるが、ヘテロ接合型には識別可能な表現型はない。しかし、上記試験の著者らは、過活動型MYCであるEμ-Mycを背景にもつTip60ヘテロ接合体が、MYCによるB細胞リンパ腫の発生を助長したことを明らかにした。DDR経路の成分を免疫染色したところ、上記ヘテロ接合体のDDR経路には重度の欠陥が認められた。この所見は、RNA干渉を用いてTip60をダウンレギュレートした、コントロール度の高いin vitro系でもDDRのダウンレギュレーションが生じたことによって裏づけられた。この欠陥はMYCによるDDRに特異的で、異なるDDR経路を利用する電離放射線への反応に、Tip60ヘテロ接合型マウスまたは野生型マウスによる差異はなかった。

このように、Tip60は、DDR経路を通じた腫瘍抑制においてハプロ不全であるが、では、MYCおよびp53を調節する役割についてはどうだろうか。MYCおよびp53の標的の転写解析では、Tip60ヘテロ接合性の作用は認められず、DDRに対するTIP60の作用がMYCおよびp53による転写とは無関係であることが示唆された。しかしこれは、TIP60がp53およびMYCを介した腫瘍抑制の役割ももたないことではなく、ただ、そのような役割がハプロ不全ではないことを意味する。

マウスに関する上記データから、この試験の著者らは、ヒト腫瘍におけるTIP60のmRNAレベルおよびタンパク質レベルに着目した。乳房腫瘍、頭頸部腫瘍およびさまざまなリンパ腫では、症例全体の40%前後でTIP60が低値を示していた。重要なことに、この割合は、高悪性度の乳房腫瘍で極めて高かった。また、免疫染色によると、腫瘍細胞核中のTIP60レベルは低いが、細胞質中のTIP60レベルは低いどころか高値となる可能性があり、腫瘍形成には非局在化および低発現のいずれもが重要であることが示唆され、興味がもたれる。

マウスで得られた結果から、TIP60のDDR作用はMYCおよびp53が調節する転写とは無関係であることが明らかになった。これと似た現象(TP53の変異と相関するTIP60ヘテロ接合性の消失)はヒト細胞でも観察され、両経路が独立に働いて腫瘍形成を助長すること、TIP60ヘテロ接合性の作用が機能的p53に依存していないことがわかる。

腫瘍形成の理解を深めるには、TIP60がDDRに影響を及ぼす機序を、分子レベルで解明することが必要になってくる。メディエーターとしては、毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子(ATM)およびARFが考えられるが、この試験の著者らが直接的な関連性を確認できなかったことからも、この関係が複雑であることが示唆される。しかし、これがわからなくても、TIP60の状態は、腫瘍重症度の有用な指標となりうる。

doi:10.1038/nrc2234

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