Research Highlights

転座

Nature Reviews Cancer

2007年9月1日

癌遺伝子融合を起こす染色体再構成が特徴の造血器悪性腫瘍は多いが、充実性腫瘍にはそのような再構成がほとんど知られていない。そんな中、Nature誌に発表された2編の論文により、前立腺癌および非小細胞肺癌(NSCLC)の遺伝子融合に関する理解が深まった。

セリンプロテアーゼをコードするTMPRSS2と、転写因子ETSファミリーのメンバー(ERGETV1またはETV4)との前立腺癌における融合は、2005年にA Chinnaiyanらが初めて発見した。融合の頻度が最も高いのはTMPRSS2-ERGで、TMPRSS2-ETV1の融合はまれであるが、前立腺癌でのETV1過剰発現の頻度に基づくと、この融合が観察された症例は予想よりも少なかった。現在Chinnaiyanらは、この理由について、前立腺癌にはETV1の5′融合相手が他にもいるためと報告しており、新たに4つの融合相手、すなわちヒト内因性レトロウイルスファミリーKと相同な22q11.23由来の領域(HERV-K_22q11.23という)、SLC45A3C15orf21HNRPA2B1を特定している。上記5′融合相手の翻訳された配列が融合タンパク質に寄与することはほとんど、ないし全くないことから、これらの遺伝子の調節配列がETV1発現を促進している可能性が高い。TMPRSS2の発現は前立腺特異的かつアンドロゲン誘導性であり、Chinnaiyanらは、SLC45A3およびHERV-K_22q11.23もこのカテゴリに該当するとしている。C15orf21の発現は前立腺特異的であるが、アンドロゲンによって抑制される。HNRPA2B1は前立腺特異的でも、アンドロゲン応答性でもなかった。前立腺癌の抗アンドロゲン療法には、アンドロゲンに対する上記遺伝子の応答の違いが影響を及ぼす可能性がある。ETV1の過剰発現はどの融合にも共通であったことから、Chinnaiyanらは、正常前立腺細胞およびマウス前立腺について、ETV1の発癌作用を確認した。するとマウスでは、ETV1によってマウス前立腺上皮内腫瘍(mPIN)が誘導された。

H Manoらは、肺癌、特にNSCLCで再発性の遺伝子融合を初めて特定した。NSCLCに新たな癌遺伝子を発見しようと、ManoらはNSCLC患者からレトロウイルスcDNAライブラリを作製し、フォーカス形成アッセイによって、マウス3T3線維芽細胞を形質転換させる遺伝子をこのライブラリから単離した。そこで特定された遺伝子の1つが、棘皮動物微小管結合タンパク質様4(EML4)のN末端部と末分化大細胞リンパ腫で頻繁に転座している未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)のC末端部をもつ融合遺伝子であった。Manoらは、EML4-ALKが3T3細胞をin vitroで形質転換させること、この細胞をヌードマウスに注入すると腫瘍が形成されることを確認した。融合タンパク質のキナーゼは、融合相手による二量体化で活性化することが多く、共免疫沈降実験を実施したところ、EML4の塩基性領域が融合タンパク質の二量体化を引き起こしうることが明らかになった。さらに、ALKキナーゼ阻害因子は、EML4-ALKが発現するBA/F3細胞の増殖を大幅に抑えた。Manoらは、NSCLC患者75例の臨床検体を分析し、5例にEML4-ALK が含まれていることを突き止めた。興味深いことに、この5例には上皮成長因子受容体(EGFR)の変異がなく、EML4-ALK融合のあるNSCLCが、ALK阻害薬での治療が奏功しうる新しいクラスのNSCLCであることがわかる。

ChinnaiyanらとManoらの所見からは、病因の中心でありうるがために、バイオマーカーおよび治療標的として適切と考えられる遺伝子融合をもつ充実性腫瘍が、恐らく多いことがうかがえる。

doi:10.1038/nrc2217

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