関節リウマチ:RA患者において真のドラッグフリー寛解は達成可能か
Nature Reviews Rheumatology
2010年2月1日
Rheumatoid arthritis Can we achieve true drug-free remission in patients with RA?
新たな生物学的製剤や、疾患活動性の厳密なコントロールを目的とする集中治療法が導入されて以降、関節リウマチ患者において、臨床的寛解は現実的な目標になっている。しかし、いったん患者が持続的寛解に達した場合に、DMARD療法の中止を検討することは現実的なのであろうか。
関節リウマチ(RA)は、軽症で自然寛解性のものから急速破壊性のものまでさまざまな形をとり、経過が不均一な慢性炎症性疾患である。RAの治療はこの20年で大きく変 化した。早期介入、疾患活動性の厳密なコントロールを目的とする集中治療法、そして新たな標的療法によって、臨床的およびX線学的転帰は明らかに改善してきた。過 去数十年間は、寛解が転帰指標として評価されることはまれであったが、2007年に発表された欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism)の勧告では、寛解が治療の主要目標であるとされている。しかし、持続的寛解を得た患者において、DMARD療法の中止は達成可能か、また安全であるのかという問題を取り上げた研究は 少ない。
Tiippana-Kinnunenらは、診断後に「鋸歯状」方式による治療を受けていた、フィンランドの早期RA患者87例での研究について、治療継続の有無に注目して15年間の追跡 調査を行い、今回その結果を報告している。1987~1989年に登録されたこれらの患者は、DMARDを単独または併用で用い、効果不十分または有害事象発現の場合にはた だちに薬物の調節を行う治療を継続的に受けていた。15年後の転帰を検討するため、この段階で評価された患者70例を、追跡期間にDMARD治療を継続した患者(A群、n =50)、DMARDをいったん中止し再開した患者(B群、n =9)、DMARD療法を永続的に中止した患者(C群、n =11)の3群に分けた。全体で29%の患者が、寛解(米国リウ マチ協会[American Rheumatism Association]による臨床的寛解の基準6項目中、倦怠感を除く5項目と定義6)または無症状期間の達成により、DMARDを中止した。これ らの患者のうち45%で疾患が再燃し、再燃した患者全例で、DMARD療法の再開にもかかわらず、疾患活動性の良好なコントロールは達成されなかった。B群とC群における DMARD無投与期間の平均は、50ヵ月(範囲:3~137)であった。15年後、全寛解率は14%であったが、A群(6%、95% CI 2~16)およびB群(0%、95% CI 0~34)では、C群(64%、95% CI 31~89)に比べ、寛解達成の頻度が低かった。A群とB群では、C群に比べ、疾患活動性も高かった。Larsenスコアによって評価したX線上の損傷は、A群でもっとも範囲が大きく、C群でもっとも小さかった。このように、15年の追跡期間に、DMARDは29%で中止可能であったが、そのほぼ半数で再開を要した。DMARD療法を再開しなければならなかった患者の中で、15年後に臨床的寛解にあった例はなく、疾患再燃の徴候を綿密に長期間観察することの重要性が強調されている。
長年RAを患う患者を対象にDMARD療法の中止と継続を比較した、先行する無作為化プラセボ対照試験では、DMARD療法を中止した群(38%)において、治療を継続し た群(22%)よりも、再燃の累積発生率が有意に高いことが示された。言い換えれば、プラセボ群ではDMARD群に比べ、再燃リスクがほぼ2倍になった。
RAを最近発症した患者において反応に基づく治療法4通りを比較したBeSt試験の4年間の追跡調査結果が先ごろ発表され8、4年後に43%という高い臨床的寛解率(疾患活 動性スコア<1.6と定義)が示された。4年後にドラッグフリー寛解の状態が維持されていた患者の割合は13%、無投薬期間の平均は11ヵ月であった。 さらに、2つの早期RA患者コホートを対象にした最近のある解析では、ドラッグフリー寛解の維持(DMARDの現在の使用なし、腫脹関節なし、リウマチ専門医により DMARDフリー寛解に分類、DMARD中止後1年以上にわたり腫脹関節なしと定義)が、Leiden Early Arthritis Clinicの患者の15%と、British Early Rheumatoid Arthritis Studyの患者の9.4%で達成されていた9。上記の試験に共通するドラッグフリー寛解達成の予測因子は、症状持続期間が短いこと、男性であること、自己抗体がないことであった。
RA患者のドラッグフリー寛解を取り上げている試験はごく少数である。さらに、これらの数少ない試験のあいだでさえ、臨床的寛解の定義には差があり、データの試験間比 較が困難になっている。それでも、ドラッグフリー寛解にある患者の割合は、ここ何年ものあいだほぼ一定のようである。対照的に、臨床的寛解が達成される頻度は、生物 学的製剤を用いた併用療法、あるいは疾患を厳密にコントロールする集中治療を受けている患者において、標準的治療を受けている患者よりも高い。Leiden Early Arthritis ClinicとBritish Early Rheumatoid Arthritis Studyに関する上記の解析9において、ドラッグフリー寛解維持率は、各登録期間(1993~1995年、1996~1997年、1998~2002年)で同等であった。しかし、各期間に登録された患者数が少なかったため、治療法が転帰に影響を及ぼした可能性を完全に否定することはできなかった。さらに、ドラッグフリー寛解を達成した患者では、DMARD療法を継続していた患者に比べ、あまり積極的な治療を受けていない傾向があった。現在の治療法によって、過去よりも高いドラッグフリー寛解率を実際に得ることはできるのか、また、各試験で認められたドラッグフリー寛解にある患者の割合は、疾患の「自然経過」を表しているのか、といった疑問にはまだ答えが見つかっていない。炎症が慢性化するかどうかを決定する特異的な生物学的および分子的機構はまだ特定されていないため、RAにおける慢性化の「マスタースイッチ」を標的とする治療法が欠けている。短い症状持続期間は、良好な転帰およびドラッグフリー寛解の達成と一貫して関連している。RA発症のリスクが高い人を、慢性化を引き起こす「マスタースイッチ」が永久にオンになってしまう前に、特定することができれば、真のドラッグフリー寛解を達成できるのかもしれない。
結論として、DMARD療法の中止は達成可能であり安全でもあるが、それはごく一部の患者においてのことである。そのような患者の割合は、ここ何年ものあいだほぼ一定の ようであり、ある程度は疾患の「自然経過」を表している可能性がある。ドラッグフリー寛解の維持を予測する因子は、短い症状持続期間、男性、自己抗体がないことである。薬剤中止の際には、患者の綿密な観察が必要である。RAを最近発症し、集中治療と疾患活動性の厳密なコントロールを受けた患者を対象とした試験から、長期の追跡調査 データを得る必要がある。しかし、それより興味深いのは、持続性疾患を有する一部の患者において、見かけ上永続的にオンになっている「マスタースイッチ」を特定できるかどうかという問題である。
doi:10.1038/nrrheum.2009.253
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