小児におけるビスホスホネート製剤の使用:引き続き注意が要される
Nature Reviews Endocrinology
2009年5月1日
Bone Use of bisphosphonates in children—proceed with caution
小児骨粗鬆症に対するビスホスホネート療法の試験に関するレビューにより、同療法がBMDを上昇させることは確認されたが、骨折率もしくは日常の生活機能を改善するかどうかは明らかにされなかった。本レビューで得られた知見は、小児において同剤をいつどのように用いるべきかという情報を臨床医に提供するのに役立てられるか?
ビスホスホネートは骨表面に蓄積するピロリン酸の合成アナログで、骨表面にて破骨細胞に取り込まれることにより再吸収抑制効果を示す。成人骨粗鬆症治療におけるビスホスホネート製剤の効果と安全性については多くのエビデンスが得られているが、小児における長期使用のデータは少ない。にもかかわらず、原発性もしくは続発性骨粗鬆症患児治療における強い臨床的必要性と小児に適した骨形成促進薬の不足により、ビスホスホネート製剤は15年以上にわたって使用されてきた。今回、小児骨粗鬆症患者におけるビスホスホネート製剤の使用に関する重要な知見を明らかにしたレビューが発表された。
BacharachとWard1は、原発性もしくは続発性骨粗鬆症患児における種々のビスホスホネート製剤の使用に関して検討した試験を対象にレビューを行った。残念ながら、これらの試験に用いられていた薬剤、用量、測定法が多様なうえ、骨粗鬆症の原因も様々であったためメタアナリシスは実施不可能であった。小児における原発性骨粗鬆症の原因には骨形成不全症が挙げられ(本稿で中心的に取り上げる)、続発性の原因には慢性疾患や内分泌疾患などが考えられる。しかし、本レビューでは一般的な主要問題に焦点が当てられた。
ビスホスホネート製剤の1種であるパミドロネートの静脈内投与は骨形成不全症患児2-4、ならびに脳性麻痺など種々の二次的要因を有する小児のBMDを上昇させる。治療を中断すると患者のBMDは2年間維持されるが、その後は徐々に低下する4。このパターンは薬剤の影響を受けていない骨の形成を反映していると考えられる1,4。ビスホスホネートは骨梁数を増やすことによって骨量を増加させるが4、この治療に関連したBMDの上昇には、二重エネルギーX線吸収法において確認される石灰化軟骨の影響も含まれている5。ビスホスホネートの中止から正常な骨代謝の回復までにはタイムラグがあり、その後、石灰化軟骨が徐々に再吸収されることによって、それまでに増加していたBMD Zスコアが低下してしまうと考えられる。
BachrachとWardが指摘するように、BMDは骨強度の指標でもなければ、小児の骨折リスクを予測する信頼できる因子でもない。小児骨粗鬆症患者では骨折率の変化を測定すること自体が困難である。というのも、小児期では骨折率が高いという背景があり、骨の種類により骨折の際にかかる力が異なるためである。加えて、成人骨粗鬆症の研究に比べて小児を対象とした研究では登録症例数を確保できないという問題もある。それでも、骨形成不全症患児を対象とした対照比較試験が行われており、経口アレンドロネート投与によりL1~L4の椎骨BMDが有意に上昇すること、静注neridronateもしくはパミドロネートでは投与群と非投与群とで非椎体骨折の発生率に有意差が認められなかったことが報告されている。
別の対照二重盲検比較試験では骨形成不全症の治療にアレンドロネートを使用しても骨痛や骨折率は変化しないことが明らかとなり、FDAはこの結果を添付文書に反映するよう記載の変更を求めている6。しかも本試験の結果は、先行の観察試験3で認められた骨痛減少と機能改善に関する知見を支持するものではなかった。われわれのグループが行った研究では、多くの患者で持続力の増大が報告されたが、骨痛レベルが特に下がったかどうかは明らかにされていない2。これら試験では、いずれもビスホスホネートの効果が長管骨よりも椎体で認められていた。すなわち、治療群では対照群に比べて椎体高と断面積(骨強度、および圧迫に対する耐性の直接的な指標)が有意に増加していた。早期の椎体圧迫骨折の有害な転帰を考えると、椎体構造の回復は胸部容積や呼吸機能の保持に有用と考えられる。
ビスホスホネートの累積投与による有害作用としては、一般医学界や歯学界において顎骨壊死に注目が寄せられ、一般紙にも取り上げられている。ビスホスホネートの大量投与により顎骨壊死を生じた一部の成人患者が深刻な事態に陥ったことは確かである。しかしBacharchとWardは、ビスホスホネート投与を受けている小児や青年では顎骨壊死の報告がないことを強調している。むしろ著者らは、適切にも成長中の小児の骨における最大の懸念が骨のモデリングおよびリモデリングの過剰抑制であることを指摘している。
ビスホスホネート投与を受けたIII/IV型骨形成不全症患児を対象に含む試験では、2~4年間の治療に伴いBMD2,4、骨皮質幅および海綿骨量4の増加が生じることが明らかにされている。しかし、ビスホスホネートの骨における半減期は10年を超える。そのためパミドロネートは治療中止8年後においても尿中で検出される。したがって重要な点として、医療提供者はビスホスホネート製剤を連続的に処方する前に、それらの累積用量が有害作用を及ぼす可能性について考慮すべきである。標準的用量であっても長期投与した場合は骨のリモデリングが抑制され、骨幹端部のundertubulationとして検出されることもある7。また小児においては、パミドロネートの大量投与により骨に大理石骨病様の変化が生じ、治療中止後も回復せずに成人期においても構造上の変化が持続することが報告されている。
動物や小児を対象とした研究からは、ビスホスホネートの累積投与による結果がどのようなプロセスを経て引き起こされるかを知る手がかりが得られている。Brtlマウスモデルは骨形成不全症の唯一の動物モデルである。同マウスでは、古典的な骨形成不全症に典型的にみられるグリシン置換をもたらす変異がコラーゲン遺伝子Col1a1の1つのアレルに生じ、中等度の重症度を示すIV型骨形成不全の表現型が発現する。Brtlマウスおよび野生型同腹仔において成長期にアレンドロネートを投与すると、両マウスとも骨質の低下がもたらされた。すなわち、骨の剛性と骨折に要する荷重の増大と同じ時間枠内で石灰化軟骨は残存し、骨の材質強度や弾性率は低下した。外科医から聞いた情報によれば、ビスホスホネート投与を受けた小児の骨は「岩のように硬く」かつ「砕けやすい」。ビーグル犬を用いた研究では、アレンドロネートまたはリセドロネートにより骨代謝回転が抑制されると、治療早期に微小な損傷(亀裂)が骨構造に集積することが明らかにされているが、これは骨強度低下を引き起こすプロセスの一部を説明している可能性がある。
動物および小児を対象とした研究からは、ビスホスホネートが骨に存在する主要な細胞集団に対して累積的かつ有害な作用を及ぼすことも示されている。まず、小児骨形成不全症および成人骨粗鬆症患者の腸骨稜では、治療中止後においても多核巨細胞の破骨細胞が検出されることが指摘されている。また、ビスホスホネート投与はオステオプロテゲリン欠乏マウスとBrtlマウスの双方において骨芽細胞に形態学的な変化をもたらした。同骨芽細胞は正常なふっくらとした立方体ではなく扁平化し、lining cellのようになった。この変化は、ミネラル沈着率により測定される骨形成の低下と相関していた。
BachrachとWardは、ビスホスホネート療法をどの程度継続するべきかという、さらに重要な問題にも取り組んでいる。彼らは、ビスホスホネート投与中止後のBMD低下により、治療の影響を受けた骨と新しい骨との接合部において骨折リスクが増大すると結論づけている。そして、同接合部における骨折リスクとビスホスホネートの累積投与による悪影響との間で適度なバランスをとることは、数年間にわたりビスホスホネートを最大用量投与し、その後成人身長に達するまで低用量を投与することにより可能であると提唱している。しかし、毒性作用が観察された男児では、ビスホスホネートによる治療中止後も治療施行中も骨折率は同等であり、骨折は新しい骨との接合部ではなく、治療の影響を受けた骨密度の高い骨で生じていた。
ビスホスホネートが骨の質に与える累積的かつ有害な作用と、骨折に及ぼす多義的な効果とを考え合わせると、椎体の形状を回復するために同剤の投与を最小有効量にて数年間継続することに関して、さらなる議論が繰り広げられよう。第1段階の治療を行った後には、治療を継続もしくは次の段階へと進める前に椎体形状、長管骨骨折、およびBMDを注意深くモニタリングすべきである。 BachrachとWardは、この治療による機能上の転帰、特に四肢骨折を評価するのに十分な検出力をもつ臨床試験の実施が要されるとしながら、このような試験の実施が困難であることも承知している。実現するには、まず多数の施設が登録患者の確保のために努力する必要があるが、未治療の小児を十分数見つけられるかという問題に直面すると予想される。さらに研究者らは、親の圧力や効果的な薬物治療が他に存在しないという事実によって高まる重圧に立ち向かうことも求められよう。十分な財政的サポートを得ることも大きな課題となる。このような試験の実施を計画している研究者らは、遺伝的要因もしくは慢性疾患が原因で骨粗鬆症を発症した小児に対する標準療法としてビスホスホネートを考慮するには、十分な医学的エビデンスが得られていないという説得力のある理由について説明しなければならない。かつ、ビスホスホネート療法を実施するうえで最適な薬剤の種類、年齢、治療期間、および最小有効量について決定する必要性があることも訴える必要があろう。 著者らは、課題のいくつかについては強調せず軽く触れるにとどめている。今後は、以下の疑問に答える研究が行われることが望まれる。ビスホスホネート投与により椎体形状が改善すれば側湾症の発症を予防できるか?同じ薬物療法レジメンに対する小児の反応性にばらつきをもたらす機序とは?骨格がビスホスホネートの貯蔵所となる女性患者において、長期的な生殖上の安全性をどのように確保するか?これら疑問の多くは、小児において安全かつ作用時間の短い骨吸収抑制薬もしくは骨形成促進薬が入手できるようになれば解決されると考えられる。さしあたり、臨床医は小児に対するビスホスホネートのコンパショネートユースを注意深く続け、治療期間は最大骨量が得られる2~4年を限度とし、最小有効量を使用すべきである。
診療のポイント
・ビスホスホネートは骨粗鬆症患児のBMDを上昇させるが、同剤による骨折率の低下を支持するデータは十分に得られていない。
・小児においてビスホスホネートを累積的に高用量用いると骨の質が低下するため、同剤の使用は研究目的もしくはコンパショネートユースにとどめるべきである。
Competing interests
著者は利害関係がないことを言明している。
doi:10.1038/nrendo.2009.58
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