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カロリーか成分か:減量に最適な食事療法とは

Nature Reviews Endocrinology

2009年8月1日

Calories or content what is the best weight-loss diet?

著者らは過体重の成人811例を、蛋白質、炭水化物、および脂質によるカロリー構成比が異なる4つの低カロリー食事療法群に無作為に割り付け、2年間追跡した。すべての群である程度の体重減少が認められ、心および糖尿病リスク因子も改善した。この結果を受け、ついに臨床医は最も優れた減量法を患者にアドバイスできるようになるのであろうか。

多くの過体重および肥満患者とその主治医は、有意で持続的な減量をもたらす「究極の」食事療法を求め続けている。もっとも明白な答えは、単に食事量を減らすというもの。それによりエネルギーバランスが少なくとも一時的にはマイナス状態になることは確かで、また、15分間の診療中に簡便かつ簡潔に治療指導が行えるため十分論理的なアドバイスと言える。しかし、低カロリー食事療法後に有意な減量が数年以上維持されたとするエビデンスはほとんどない1。このように減量効果が維持されない原因として、環境の影響と生体内における複雑な調節システムの関与が考えられる。同調節システムは、低カロリー状態において体重減少を最小限にしようとする、もしくは(たとえそれが社会的かつ医学的に望ましくなくても)ベースラインの体重に戻そうとする方向に働く。

カロリー制限のみによる長期転帰が不良であるため、代わりに特定の食品成分(多くは食品中の多量栄養素である脂質、炭水化物、蛋白質)の摂取増加や除去が推奨されるようになった。新たな食事療法が次々に登場し、効果的な減量法を求める人々によって試され、廃れていく。今回は米国の主要な栄養研究所3施設の研究者らにより、過体重および肥満者を対象に多量栄養素の構成比が異なるカロリー制限食を摂取させ、減量や健康の転帰を検討した結果が報告された。

これまでで最大規模の比較検討試験の1つであるSacksらの研究3では、811例に対して750kcaL/日のカロリー削減を目標にした食事療法が施行された。この削減カロリー量は、被験者のベースラインにおけるエネルギー消費量と活動レベルから算出された。被験者は、総カロリーに対する多量栄養素のカロリー構成比が異なる以下の4つの食事療法群のいずれかに割り付けられた。すなわち、1)脂質を20%(低脂質)、蛋白質を15%(標準蛋白)、炭水化物を65%(高炭水化物)、2)脂質を20%、蛋白質を25%(高蛋白)、炭水化物を55%、3)脂質を40%(高脂質)、蛋白質を15%、炭水化物を45%、もしくは4)脂質を40%、蛋白質を25%、炭水化物を35%(低炭水化物)の比率でそれぞれ摂取する群である。食事療法に関する研究のほとんどは脱落率が40%以上と高い値を示すことが知られているのに対し、本研究では80%の被験者が2年間の経過観察を完遂したことは驚くべきことである。

ベースラインの食事に関する情報を提供してくれた被験者のサブセットでは、総カロリーに対する脂質の割合が37%と相対的に高く、10年前に行われた集団ベースの研究と同等であった4。この結果は、長年にわたり米国の平均的な食事がまったく変化していないことを示すものである。2年間の追跡期間終了後、低脂質群では脂質摂取比率を約27%まで低下させることができたが、高脂質群の同摂取比率も目標の40%を下回る33~35%に達した。この差から高脂質摂取と低脂質摂取の影響を比較することは可能であったが、実際には脂質摂取比率が低下したことにより両群で部分的な減量が達成された可能性がある。また、標準蛋白群(総カロリーの15%)と高蛋白群(総カロリーの25%)との比較に期待が寄せられたが、有望な結果は得られなかった。というのも、両群とも蛋白摂取比率がベースラインの18%から2年後に20~21%へと上昇したためでる。

減量パターンは、食事療法のどの組み合わせにおいても同様であった。すなわち、体重は食事療法開始6ヵ月後までに平均6kg減少したが、その後は徐々に増加し、試験終了時点におけるベースラインからの体重減少量は平均4kgであった。また、これはある程度予想されたことであるが、食事療法の遵守を促すための定期的なグループセッションへの参加は体重減少量の増加と関連していた。さらに、2×2要因デザインによる検討からは、自己申告による多量栄養素摂取比率によって目標比率の減量に及ぼす影響が評価しうることが示された。同解析により、高蛋白群および低脂質群では目標比率の遵守と体重減少量増加が関連するが、標準蛋白群および高脂質群ではそのような関係はみられないことが明らかとなった。同様に各食事療法群におけるコレステロール値の変化について比較したところ、低脂質・高炭水化物群では総コレステロール値とLDLコレステロール値が低下するが、炭水化物摂取比率が最も高い群ではHDLコレステロール値がそれほど改善(上昇)がしないことが確認された。一方、蛋白摂取比率の変動が代謝転帰に有意な影響を及ぼさない理由として、これまでは各食事療法群における蛋白の目標比率の差が小さいことが考えられてきたが、本研究においても有意な影響はみられなかった。

すべての食事療法群で、体重減少に伴い総コレステロール値およびLDLコレステロール値の低下、HDLコレステロール値の上昇、インスリン値およびインスリン感受性の指標となるHOMA(homeostasis model assessment)指数の改善がみられた。さらに、発現しなかった事象も注目に値する。すなわち、高脂質群で糖・脂質代謝機能の破滅的な悪化は認められず、また、一部で体重増加や糖尿病の原因になると長年考えられていた高炭水化物摂取によってもトリグリセリド値およびインスリン値の上昇、ならびにHOMA指数の悪化はみられなかった。

登録患者数、試験デザイン、脱落率の低さ、および食事カウンセリングや行動的介入の実施という点から、近い将来に今回よりも優れた食事療法比較試験が行われる可能性は低いと言えよう。同様の結果が得られている他の比較試験5,7と併せて考えると、提起される重要事項は明らかである。第1に、多量栄養素の構成比にかかわらず、どの食事療法によってもある程度の減量効果が得られ(総減少量約2~4kg)、また、市販製品が通常宣伝するような劇的な効果は期待できないということ。この点は、患者にとって特に重要である。というのも、非現実的な減量への期待は欲求不満を引き起こし、糖尿病等の慢性疾患を改善または予防しうる食事療法を断念させる可能性があるためである8。第2に、食事成分の構成比にかかわらず、体重減少に伴い脂質値、炎症性マーカー、および血糖値の改善が得られること。

しかし本研究では、各食事療法群における個々の体重変化の範囲など、いくつかの重要なデータについての記載がない。Dansingerらは、低カロリー、低脂質、低炭水化物、もしくは高蛋白のいずれ食事療法を施行した場合でも、1年目の体重変化は個々に大きく異なり、体重が増加した被験者もいれば、著しく減少した被験者もいたことを示している5。個々の反応の差を決定する因子を特定できれば、臨床医が個々の患者に合わせて多量栄養素の構成比の異なる食事療法をアドバイスし、各人に最適な減量法を処方できるようになるかもしれない。また、本研究には運動療法群が含まれていなかった。肥満患者では、食事療法に加えて運動療法が標準的に推奨されており、それにより持続的な減量の可能性が高まると考えられている9。最後に、本論文に関する論説10でも指摘されているが、本研究の結果は、望ましくない体重増加や肥満の発現予防に最適な多量栄養素の構成比は何かという疑問に答えていない。これは、公衆衛生の観点からするときわめて重要な問題である。

診療のポイント
・低カロリー食事療法による減量効果は中等度であり、体重は一般に2年間で2~4kg減少する。
・高脂質群でHDLコレステロール値が最も上昇し、高炭水化物群ではLDLコレステロール値が最も低下した。
・心血管疾患および糖尿病のリスク因子は、多量栄養素の構成比にかかわらず、中等度の減量によって改善される。

doi:10.1038/nrendo.2009.145

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