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高齢者における副甲状腺切除術は安全かつ有益か

Nature Reviews Endocrinology

2009年8月1日

Is parathyroidectomy safe and beneficial in the elderly?

原発性副甲状腺機能亢進症においては副甲状腺切除術が治癒的治療法となるが、高齢者では手術リスクに対する懸念や症状改善効果に対する疑問から、副甲状腺切除術が拒否される場合が多い。しかし、高齢者における副甲状腺切除術の有効性および安全性に関するエビデンスが蓄積されるにつれ、こうした認識に変化が現れている。

Stechmanら1は、高齢者に対する副甲状腺切除術の有効性および安全性を評価するため、3次医療施設単施設において5年間の期間中に副甲状腺切除術を受けた原発性副甲状腺機能亢進症患者224例のうち、75歳以上の56例(平均年齢79歳)を対象にサブグループ解析を行った。試験期間の最後の30ヵ月間に副甲状腺切除術を受けた患者では、術前および術後3~6ヵ月における副甲状腺症状についても検討した。また、22ヵ月間(中央値)の追跡期間中における術後合併症および死亡に関するデータも収集した。75歳以上の患者は術後合併症の発症率がきわめて低く、長期生存率も60~74歳の患者と同等であった。副甲状腺切除術による副甲状腺症状の有意な改善は、全年齢群において認められた。これらの結果に基づき著者らは、高齢者において副甲状腺切除術は「安全、有益、かつ実施可能」であり、「(原発性副甲状腺機能亢進症の]高齢患者すべてにおいて検討すべきである」と結論づけている。

原発性副甲状腺機能亢進症は頻度の高い内分泌疾患であり、発症率は高齢化に伴って上昇する。患者の多くは無症候性であるが、約20%において腎臓結石が生じる。顕性骨疾患として嚢胞性線維性骨炎が認められるのは5%未満であるが、主に皮質骨において骨粗鬆症が高頻度に発現し(ただし、骨量低下はすべての部位で観察される)、骨折リスクが増大する2。特に女性の高齢患者では閉経および加齢に伴う骨量低下により、ただでさえ骨折リスクが上昇している。血中副甲状腺ホルモン値の上昇は骨量低下を促進して骨の質を低下させ、直接的に骨の大きさと構造を変化させることによって骨折リスクをさらに高める。また、高齢者において高頻度でみられるビタミンD欠乏も、甲状腺機能亢進症と骨折のリスクを高める。易疲労性、無関心、抑うつ、意識の清明度の低下、疼痛といった非特異的症状がしばしば報告されるが、血中副甲状腺ホルモン値の上昇および/または高カルシウム血症による影響と加齢による影響とを区別することは困難な場合が多い。

異常な副甲状腺組織をすべて外科的に切除すれば、根治的かつ永続的な治癒が得られる。促進された骨量低下が回復して骨折リスクが軽減するとともに、腎臓結石の発現頻度が低下し非特異的症状も改善される。データは少ないものの、神経認知機能に対するベネフィットが得られることも報告されている3。手術を施行しなかった場合は、15年間に患者の3分の1で副甲状腺機能亢進症が進行する。進行症状としては、皮質骨における骨量低下の亢進や骨折リスクの増大、腎臓結石や腎石灰化による腎不全などが認められるようになる4。進行率は50歳未満の患者で上昇するが、高齢患者では血中副甲状腺ホルモン値の持続的上昇による影響を特に受けやすいと考えられる。というのも、高齢者では骨量低下、腎障害、心血管および神経認知機能の低下が合併する可能性があるためである。

イメージング技術の進展により、病巣のみを切除する外科手技の開発が実現している。副甲状腺における病巣の術前局在診断が必要となるものの、このような最小侵襲手術や片側切除術によるアプローチ法は手術時間の短縮や合併症発症率の低下、さらには入院期間の短縮をもたらした3。こうした進歩は、手術リスクが高いことを理由にこれまで副甲状腺切除術を拒否していた高齢の原発性副甲状腺機能亢進症患者にとって特に有益と考えられる。

無症候性原発性副甲状腺機能亢進症に関する治療ガイドラインは、NIH Consensus Development Conferenceにおいて1990年に策定され2002年に改訂された5が、Third Workshop on Hyperparathyroidismにより再び改訂が行われた6。原発性副甲状腺機能亢進症の症状の一部が回復可能であることを示すエビデンスが蓄積されたことを受けて、ガイドラインでは無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の治療に副甲状腺切除術が選択されることを支持している。しかし同時に、合併症の発症率を最小限にとどめ治癒の確率を高めるために、経験豊富な外科医のみが副甲状腺手術を行うよう求めている。 Stechmanらの研究には説得力があるが、限界点もみられる。本研究の優れた点としては、前向きデザインであったこと、あらゆる年齢の患者を対象としたこと、Pasiekaの副甲状腺症状スコア7を使用したことが挙げられる。同症状スコアは有用性が確認されている手術成績の評価ツールであり、原発性副甲状腺機能亢進症患者のQOLを評価することを目的にデザインされている。さらに、合併症および死亡に関するデータが得られたことから、高齢者における手術の安全性を若年層と比較評価することが可能であった。

一方、限界点としては、まず、著者らも言及しているような高齢者における外科的介入の安全性をテーマにした研究に共通の問題がある。すなわち、高齢患者では適用可能と判断された場合にのみ手術が適用されるという特有のバイアスが生じうる。次に、副甲状腺切除術の有効性評価に用いられたPasiekaの副甲状腺症状スコアは、本研究では56例中15例にしか適用されておらず、さらに、その15例が最小侵襲手術を受けたのか、両側頸部の診断的切除術を施行されたのかについて明確にされていない。最後に、高齢者における副甲状腺切除術の生存に対する影響は、集団ベースのデータおよび副甲状腺切除術を施行された若年患者のデータとは比較されたが、年齢をマッチさせた手術未施行の原発性副甲状腺機能亢進症患者とは比較されてなかった。

以上のようにStechmanらは、副甲状腺切除術は「安全、有益、かつ実施可能」であり、「(原発性副甲状腺機能亢進症の]高齢患者すべてにおいて検討すべきである」と結論づけているが、示されたデータはこの結論を十分に裏づけるものではない。高齢者における第一選択肢である現行の最小侵襲手術は確実に実施可能であり、より広範な頸部診断的切除術に比べて相対的に安全である。しかし、そういった安全性を確保するためには経験豊富な外科医が手術を行うこと、術前および術中に病巣の位置を特定することが必要条件となる。著者らの見解とは異なるが、完全治癒を目指す場合は術中における副甲状腺ホルモンのモニタリングが外科医にとって最も有用な補助的手法となることも考えられよう。

Stechmanらによるデータは、それ自体は決定的ではないものの、高齢者における副甲状腺切除術の安全性と有効性について蓄積されつつあるエビデンス8~10を強化するものである。本データにより、高齢の原発性副甲状腺機能亢進症患者に副甲状腺切除術を適用する基準を低くすべきであるというエビデンスが支持された。ただし、高齢者において副甲状腺切除術のベネフィットがリスクを大幅に上回るか否か、手術療法のほうが薬物療法より優れているか否か、ひいては手術リスクがきわめて高い患者を除くすべての患者に対して手術療法が推奨されうるか否か、という問題はいまだ残されている。決定的な結論を導き出すには、大規模な前向き無作為化比較試験による検討が不可欠である。

doi:10.1038/nrendo.2009.142

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