アミオダロン誘発性甲状腺中毒症における糖質コルチコイドの使用
Nature Reviews Endocrinology
2009年12月1日
Thyroid gland Use of glucocorticoids in amiodarone-induced thyrotoxicosis
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(AIT)II 型の有病率が増加している。新たな研究により、治療歴のないAIT II 型に対しては糖質コルチコイド療法が安全かつ有効であり、甲状腺機能を迅速に正常化させることが確認された。また、糖質コルチコイドとチオナマイド系薬の併用による初回治療に対する反応からAIT I 型とII 型が鑑別できる可能性も示唆された。
強力な抗不整脈薬であるアミオダロンは複数の副作用を引き起こすが、特にヨード含有量が高いことから甲状腺機能異常を誘発する可能性が高い。アミオダロン 誘発性甲状腺中毒症(AIT)に伴う問題は未解決のまま残されており、しばしば診断や治療に困難を招いている。AIT は発症要因に従って2 種類に分類される。 すなわちAIT I 型はヨード負荷に反応して甲状腺組織が自律的に機能亢進状態となることで発症するが、AIT II 型はそれまで甲状腺機能が正常であった患者に破壊性甲状腺炎が生じた場合に発症する1-4。いずれの型でも、血清T3 値の上昇と血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)値の低下の所見が認められる。AIT 患者では血清T4 値も上昇するが、同値が正常上限濃度の150% 以上に上昇することはなく、AIT のマーカーとしてはT3 よりも有用性が低い。甲状腺専門医に対する質問票による調査からもわかるように、AIT の管理法は世界中で大きく異なっている。例えば初期治療戦略の選択やAIT 診断後にアミオダロン療法を中止すべきかどうかの判断、さらにはI 型とII 型の鑑別法などにも相違がみられることが報告されている5。今回Bogazzi ら6 により、AIT II 型の診断を受け、薬物療法による治療歴のない患者を対象にチオナマイド系薬のチアマゾールと糖質コルチコイド製剤の経口プレドニゾンの効果を比較した後ろ向きコホート研究の結果が発表された。著者らはRoyal Free Hampstead NHS Trust の院 内データベースを用い、2002 ~ 2007 年に内分泌代謝内科を受診した83 例を特定した。さらに同患者群の中から、Basaria らの予測モデル3 により治癒期間が40 日以下と推定された42 例を選択した。本内分泌代謝内科のプロトコールに従い、アミオダロン療法はAIT 診断後、全例で中止されていた。全例ともチアマゾール40 mg/ 日またはプレドニゾン0.5 mg/kg/日による治療を40 日間以上受けていた。治癒は血清T4 およびT3 値が正常化した場合と定義された。40 日以内に治癒した患者はプレドニゾン投与群では21 例中16 例であったが、チアマゾール投与群では21 例中3 例のみであった。チアマゾール投与群の非奏功例にプレドニゾンを追加投与したところ、プレドニゾン投与群において認められた同等の治癒率が得られた。試験期間中いずれの群においても重大な副作用は観察されなかった。そのため著者らは、チオナマイド系薬はAIT II 型の治療において効果はあまりなく、糖質コルチコイド療法に迅速に反応しない一部の患者に対しては甲状腺全摘除術が至適療法として考慮されるべきであると述べている。
Bogazzi らの研究は前向き無作為化対照比較試験ではなく、後ろ向き試験としての限界点を示している。それでも本研究からは、早期の糖質コルチコイド療法がAIT II 型患者においては安全かつ有効であるというさらなるエビデンスが示された。以前にもBogazziらはAIT II 型患者66 例において糖質コルチコイド療法が迅速に奏功し、プレドニゾンによる治療開始後2週間以内に血清T3 値が速やかに低下したことを報告しているが、今回は同プレドニゾンによる治療とチオナマイド単独による初回治療の転帰が比較された。
AIT の管理においてはさまざまな治療法が提案されている1-4。Bogazzi ら6 の研究で行われたようなAIT 診断後のアミオダロン療法の一律中止は、アミオダロンにより甲状腺機能障害以外の重篤な副作用が 発生する場合を除いて、必ずしも広く実施されているわけではない。というのも、アミオダロンを中止した患者と服用を継続した患者とではAIT の管理に差が認められていないためである1。内分泌代謝専門医と 心臓専門医は、すべての患者においてアミオダロンの中止によって生じうるリスクとベネフィットについて検討しなければならない。さらに両専門医は、アミオダロン中止後の疾患管理および経過観察においても綿密に連携すべきである。アミオダロン療法を継続した患者においてもBogazzi ら6 の結果が当てはまるかどうかは、今後確認する必要がある。AIT II 型はこれまで甲状腺機能正常であった患者に破壊性甲状腺炎を発現した場合に発症する。
AIT I 型はヨード- バセドウ現象(ヨード誘発性甲状腺機能亢進症)の1 つであり、ヨード負荷に反応して甲状腺組織の機能が自律的に亢進し、甲状腺ホルモンが無調節に過剰産生されることに起因する1。一 方AIT II 型は、それまで甲状腺機能が正常であった患者で破壊性甲状腺炎が生じた場合に発症する。破壊性甲状腺炎はアミオダロンにより直接誘発されるが、アミオダロンに含まれる多量のヨードにより間接的に誘発されることもある。ただし、この後者の作用の基盤となる機構は明らかにされていない。また、AIT II型ではアミオダロンが甲状腺濾胞に対して直接的な細胞毒性を示し炎症反応を引き起こすが、そのメカニズムも十分解明されていない。この炎症反応で濾胞が破壊され、循環血中に縮合前の甲状腺ホルモンが大量に漏出する。疫学的データによると、AIT I 型およびII型の有病率は食事によるヨード摂取量によって地理的に異なることが示されている。しかしBogazzi ら8 は、イタリアでは過去30 年間にAIT I 型とII 型の相対的な比率が逆転する傾向にあることを明らかにした。こ の知見は、ヨード欠乏集団においても現在ではII 型が優位となっていることを示唆するものである。
AIT I 型に対してはチオナマイド療法が施行されるが、甲状腺内部に多量に蓄積されたヨードによりしばしば治療抵抗性をきたすため、甲状腺中毒症の根治治療としては手術療法がその後必要となる。一方AIT II 型は経口糖質コルチコイド製剤で治療可能であるが、甲状腺の大きさと受診時の甲状腺ホルモン値の濃度によって評価されるAIT の重症度により、甲状腺機能の正常化に至るまでの必要な期間は変動する。 実診療においては患者がAIT I 型とII 型を重複して発症することもある。臨床的指標を用いてこの2 つのAIT を明確に鑑別したり、ないしはその混合型を同定することは容易ではない。しかし、AIT II 型は 特に強い治療抵抗性を示すことが多いため、治療戦略を決定するうえではI 型との鑑別がきわめて重要となる。血管分布の差異を検出するカラードプラー法による甲状腺超音波検査9 や甲状腺99mTc 2 methoxyisobutyl-isonitrile(MIBI)取込み量の測定10 等の診断ツールは有用な可能性があるが、専門医すべてがこのような検査を簡単にもしくは迅速に利用できるわけではない。
Bogazzi らの結果から、糖質コルチコイド製剤とチオナマイド系薬の併用はAIT I 型とII 型の鑑別に有用であり、AIT I 型患者において不要な糖質コルチコイドの大量投与が回避される可能性もあることが示された。内分泌代謝専門医は軽度でかつ自然治癒する頻度の高く、その多くが無症候性の疾患に対して、大量の糖質コルチコイド療法を処方することを躊躇する傾向にあり、特に糖尿病や高血圧、骨粗鬆症のリスクといった重大な合併症を有する可能性の高い高齢患者に対してその傾向は強い。AIT I 型かII 型か不明な場合は、Bogazzi らが述べるようなチアマゾール40 mg/ 日およびプレドニゾン40 mg/ 日を2 週間投与後に血清T3 値を測定する方法が合理的な初期戦略になると思われる6。血清T3 値が治療前と比べて50% 以上低下したらAIT II 型が示唆されるため、チオナマイド療法が中止可能となる。プレドニゾンは継続するが、患者の臨床所見や生化学的反応を見ながら2 ~ 3 ヵ月かけてその用量を漸減させる。逆に血清T3 値に変化がみられない場合はAIT I 型が強く疑われるため、プレドニゾン投与を中止しチオナマイド療法を継続する。アミオダロンの投与中止が転帰に影響を及ぼすかどうかを含め、この治療戦略をさらに評価するためには無作為対照比較試験による検討が必要である。
doi:10.1038/nrendo.2009.218
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