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骨粗鬆症の二次性原因を特定するためのスクリーニングは有用か

Nature Reviews Endocrinology

2010年7月1日

BONE Is screening for secondary causes of osteoporosis worthwhile?

骨粗鬆症を有する閉経後女性において骨量低下を引き起こす二次性の原因については不明である。Cerdá Gabaroi らはこの空白を埋めるための研究を行った。著者らは二次性の原因が高い頻度で認められることを見出すとともに、プライマリーケアにおいて臨床的リスク因子の重要性を過小評価すべきでないこと を明らかにした。

閉経後女性における骨粗鬆症は、エストロゲン欠乏による骨吸収が増すことが最初の原因として考えられている。ビタミンD欠乏症や副甲状腺機能亢進症といった二次性の原因は男性や閉経前女性において骨量低下を引き起こすことがわかっているが、閉経後女性においてこうした病態の有病率を評価した研究はほとんどない。この問題に取り組むためにCerdá Gabaroi ら1 は横断研究を実施し、閉経後女性における骨粗鬆症の二次性原因を調査した。

対象は平均年齢65 歳の閉経後女性204 例で、骨粗鬆症の特別外来で治療を受けていた。骨粗鬆症は脊椎または大腿骨BMD T スコア<- 2.5、もしくは同T スコア<- 1 で非外傷性骨折が認められる場合と定義された。総じて非錐体骨折は52%、脊椎骨折は28% の女性にみられた。著者らは骨量低下の二次性原因として、血清25- ヒドロキシビタミンD 値(ビ タミンD 不足)、血清副甲状腺ホルモン(PTH)値(二次性副甲状腺機能亢進症)、尿中I 型コラーゲン架橋N- テロペプチド(NTx)排泄量(骨吸収)、尿中カルシウム(Ca)排泄量(高Ca 尿症)といった生化学パラメータについて主に分析した。さらに、全例において甲状腺およびコルチゾール関連疾患、一部の患者(10%)においてセリアック病のスクリーニングを行った。

その結果、血清25- ヒドロキシビタミンD 値が< 75 nmol/L の患者は82%、< 50 nmol/L の患者は57% にのぼった。血清25- ヒドロキシビタミンD 値< 50 nmol/L の患者と> 50 nmol/L の患者の比較において、血清PTH 値を含む生化学パラメータに差は認められなかった。一方、血清PTH 値が上昇した患者(> 7ng/L)と上昇しなかった患者(< 7ng/L)の比較では尿中Ca 排泄量においてのみ有意差が検出され(P < 0.05)、同排泄量は血清PTH 値が上昇した患者で減少していた。骨吸収が亢進した患者(尿中NTx 排泄量> 65 nmol/L)は、同排泄量< 65 nmol/ L の患者に比べて尿中Ca 排泄量が平均で62 mg/24 時間増加していた。

BMD 測定値に関しては、血清25- ヒドロキシビタミンD 値が低い患者(< 50 nmol/L)では高い患者に比べて大腿骨BMD は低かったが(P < 0.05)、脊椎BMD に差はみられなかった。また、いずれの比 較群においても血清PTH 値の上昇(> 7 ng/L)とBMD 値の低下に関連は認められなかった。尿中Ca 排泄量の増加のみが、すべての非外傷性骨折と関連していた。

本研究の結果からはいくつかの疑問点が提起される。まず、Cerdá Gabaroi らが椎体高の20% 減少ではなく2、正常の> 3SD の椎体高比を用いて椎体骨折を定義したことにより、過剰診断を招いた可能性が ある。また、血清25- ヒドロキシビタミンD 値は季節による影響を受け、夏のピーク値から冬の値の間には15 ~ 25 nmol/L の変動がみられるが3、この情報が考慮されていない。さらに、文献では通常、血清25- ヒドロキシビタミンD 値< 50 nmol/L をビタミンD 不足、< 30 ~ 37 nmol/L をビタミンD 欠乏症として区別している。しかし本研究では、血清25- ヒドロキシビタミンD 値< 75 nmol/L の場合をビタミンD 不足と定義していた。現行のエビデンスに基づけば、ビタミンD 不足は血清25- ヒドロキシビタミンD 値< 50 nmol/L を基準に定義すべきであろう。 もう1 つの疑問点は、本研究ではこれまでに何度も実証されている血清PTH 値と25- ヒドロキシビタミンD 値との間の負の関連3 が認められなかったことである。二次性副甲状腺機能亢進症を伴わない血清 25- ヒドロキシビタミンD 値< 75 nmol/L の「ビタミンD 不足」にはどのような意義があるだろうか。

血清25- ヒドロキシビタミンD 値の最適値については議論が続いており、主に骨折予防効果に関する研 究の結果に基づき4 血清25- ヒドロキシビタミンD値> 50 nmol/L の場合を充足状態とする研究者もいれば、血清PTH 値が25- ヒドロキシビタミンD 値75 ~ 87 nmol/L でプラトーに達する傾向にあることから3 同値を充足状態と定義する研究者もいる。ただし、血清PTH 値がビタミンD 欠乏の正確な指標となるかどうかは明らかではない。一方、675 件の骨生検を検討したドイツの研究では、骨軟化症が認められた173 例のうち血清25- ヒドロキシビタミンD 値>50 nmol/L の患者はわずか3.5%、> 62.5 nmol/L の患者はたった1% であったことが示されている。ある程度のビタミンD 欠乏が骨粗鬆症に寄与しているのは間違いないと思われる。

二次性副甲状腺機能亢進症(血清PTH 値> 7 ng/L) が骨喪失を亢進させる可能性があることは一般的に認識されている。本研究では血清PTH 値の上昇が35% の患者で認められたが、この割合は過去の報告に比べるとやや高い6。おそらくCerdá Gabaroi らの研究コホートには、セリアック病以外の吸収不良症候群、ラクトース不耐症、低Ca 摂取、もしくは早期慢性腎臓病といった他の原因による副甲状腺機能亢進症患者が含まれていたと考えられる。しかし本研究では、血清PTH 値が高い患者においてBMD 値の低下は観察されなかった。また、原発性副甲状腺機能亢進症が5 例(2.5%)に認められたが、こうした患者でBMD 低下(T スコア< 2.5)がみられる場合は副甲状腺摘出術を施行すべきである。

他には、本研究での高Ca 尿症の定義( > 250 mg/24 時間)も問題となろう。通常、尿中Ca 排泄量の上限範囲は290 mg/24 時間であり、この値は食事からのCa 摂取やCa 吸収、糸球体濾過量によって変動する7。したがって、高Ca 尿症が骨折リスクと結びつくとした本研究の結果は確かではない。著者らは、骨粗鬆症を有するすべての閉経後女性において血清25- ヒドロキシビタミンD欠乏のスクリーニングを実施すべきだと主張する。しかし、スクリー ニングの費用対効果比の問題はまだ解決されておらず、また現行の骨粗鬆症治療に加えて二次性の原因に対する治療を施行した場合に有益性が得られることを示した無作為化比較試験のエビデンスも欠けている。 骨粗鬆症の二次性原因を特定するための種々の検査にかかった費用対効果は、Medicare に加入の骨粗鬆症を有する閉経後女性173 例(平均年齢65.5 歳)を対象とした横断研究において評価されている。同研究によれば、骨粗鬆症を有するすべての閉経後女性では24 時間尿中Ca 排泄量、血清Ca 値、血清PTH 値により、甲状腺ホルモン補充療法を受けている患者では血清TSH 値によって二次性骨粗鬆症が86% 診断され、2002 年の時点でこの診断にかかる予想コストはUS $272 であった8。同プロトコールに血清25- ヒドロキシビタミンD 値を加えれば診断率は98% に上昇し、診断コストも$366 に増えると推算される。 Cerdá Gabaroi らの研究結果と2010 年のNorth American Menopausal Society の合意事項9 に基づけば、骨粗鬆症と診断されたすべての閉経後女性に対しては全血球数、血清Ca、クレアチニン、アルブミン、 25- ヒドロキシビタミンD、PTH 値を含む一連の基本的な検査、甲状腺ホルモン補充療法を受けている患者ではさらに血清TSH 値を加えた検査を行うべきであろう。クッシング症候群、多発性骨髄腫、およびセ リアック病(Box1)といった他の二次性原因は稀であるため、これらの疾患に対する検査は、臨床検査値および/ または上記の生化学検査値に異常が認められた特別な場合にのみ推奨される。

ビタミンD 欠乏症と血清PTH 値の上昇は骨粗鬆症の発症に寄与するが、BMD によって骨粗鬆症診断をしなければならない現場の医師にとっては、骨折の発生率増加に関連するリスク因子を特定したいという 思いが強い。WHO によるFracture Risk Assessment Tool(FRAX®)10 の開発は、骨折リスク因子の特定が今や可能であることを意味している。FRAX® では年齢、骨折の既往、家族の骨折歴、低BMI、喫煙、 アルコール摂取、ステロイド療法、関節リウマチ、骨粗鬆症の二次性原因、および低BMD といったリスク因子を用いて、個々の患者の骨折リスクを予測する。 つまり、BMD 測定を行っていない患者においては、 BMD の代わりに低BMI によって骨折リスクの高い患者を同定し、適切な治療法を選択、さらには同治療レジメンにCa とビタミンD 補給を加えることが可能となっている。

結論として、骨粗鬆症の専門施設では今回のスペインの研究で認められた事象がよくみられるかもしれないが、Box 1 にまとめた二次性の病態を有するのは一般的には骨粗鬆症の閉経後女性の20 ~ 30% にすぎないことを内科医と内分泌専門医は認識しておく必要があろう。まだあまり明らかにされていない、これらの二次性原因を特定するための検査の費用対効果を評価するにはさらなる研究が要される。

doi:10.1038/nrendo.2010.86

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