先端巨大症における新しいコンセンサス:治癒とコントロールの基準
Nature Reviews Endocrinology
2010年9月1日
PITUITARY GLAND New consensus in acromegaly criteria for cure and control
ここ10 年間の先端巨大症に対する治療法と評価法の進展を受け、治癒基準に関する新しいコンセンサスが必要となり2009 年4 月のAcromegaly Consensus Group 会議にて合意をみた。この新しいコンセンサス声明では現在の解析上の落とし穴が明らかにされ、先端巨大症の至適コントロールの必要性が強調されている。
先端巨大症は死亡率と合併症発症率の上昇が起こる重大な内分泌疾患である。そのため先端巨大症患者における主な治療目標は安全な治療法によって合併症率(進行率)を低減し、死亡リスクを是正して腫瘍をコ ントロールすることにある2。これらの目標は成長ホルモンおよびインスリン様成長因子1(IGF-1)分泌を正常化することによって達成されることは広く認識されている。また、重篤な再発性先端巨大症に対して は現行の高額な治療法が行われることは,その妥当性が認められている。しかし、「正常値」の定義が明らかではない。実診療における血中成長ホルモンおよびIGF-1 値の測定法に関しては解析上の落とし穴があり、その解釈には困難が伴う。
先端巨大症に対する治療選択肢はここ10 年間に重要な発展を遂げ、2000 年のコンセンサス声明で述べられた「Cortina コンセンサス」2 の改訂が必要となった。2009 年4 月にフランスのパリで開催されたAcromegaly Consensus Group 会議に先端巨大症分野の専門家74 名が集結し、先端巨大症の治癒基準に関するCortina コンセンサスについて討議し改訂を行った結果、新しい声明3 が発表された。
Acromegaly Consensus Group は過去10 年間の先端巨大症管理における数多くの進歩を考慮に入れた。その1 つが成長ホルモン受容体拮抗薬ペグミソマントの導入である4。それにより治療転帰に関する臨床的観点は大きく変化し、先端巨大症は今やほぼすべての患者で生化学的にコントロール可能となっている。さらにソマトスタチンアナログ+ペグミソマントによる併用療法が導入された5。放射線療法、手術、長期ソマトスタチンアナログ療法に関する非対照試験の長期追跡データも新しく発表された。また他のいくつかの研究グループは、新しい治癒基準(血清IGF-1 値正常かつ成長ホルモン値< 2.5μg/L)を用いると「最新」の治療法(主に初回経蝶形骨洞手術)によって死亡リスクが(ほぼ)正常化することを報告した。一方、成長ホルモンの過剰分泌の抑制後に遅発性かつ不可逆性の臨床症状が生じる可能性を示唆するエビデンスも増加している。全国規模の先端巨大症患者登録が成されており、疾患転帰に関する研究や新しい治療法を検証するための研究を実施できる準備が整いつつある。加えて成長ホルモンに対する感度と特異度の高いアッセイ法が現在容易に利用可能であり、IGF-1 アッセイも改良されている。その結果、ブドウ糖負荷試験後の成長ホルモンの正常値が0.4μg/L を認めて、その際の成長ホルモン値が1μg/L を示すことが、(すでに2000 年の声明でも言及されていたが2)現在では成長ホルモン抑制の指標となっている。
先端肥大症の発症率の低さを考えると大規模な無作為化対照比較試験に基づく結果の作成は不可能であり、勧告の強さは落ちる。試験デザインや患者選択に関するバイアス、生化学測定値の不均一性といっ た方法論的な問題は、先端肥大症治療に関する研究では障害となる。遅発性の臨床転帰を改善するための厳しい治癒基準を支持する最良のエビデンスは、後ろ向き解析に基づいて行われているのが現状である。したがって今回専門家グループによりこれらの重要な問題が討議されたことは、きわめて有意義である。本コンセンサス声明で主に取り上げられている種々のアッセイや、生化学測定値の矛盾、治療転帰の分類、治癒基準の4 つの側面について以下に述べる。
2010 年のコンセンサス声明では、年齢調整後のIGF-1 値が正常であり、加えてランダムに測定した成長ホルモン値が< 1μg/L を示すことが治癒基準として推奨されている。ランダムGH 値に矛盾がみられ る場合は、2 時間のうちに成長ホルモンのサンプリングを複数回行い、平均値が< 1μg/L 未満であれば適切な疾患コントロールが得られていると考える。薬物療法を受けていない患者では、ブドウ糖負荷試験後に成長ホルモン値が< 0.4μg/L を示す場合を正常反応者と定義する。ただし注目すべき点として、ペグミソマント療法施行中はIGF-1 だけが疾患活動性の信頼できるマーカーとなり、成長ホルモン値は上昇したままなので注意が必要である。
本コンセンサス声明では、成長ホルモンおよびIGF-1 値を明確に解釈するためのアルゴリズムが提示されている。フローチャートでは成長ホルモンおよびIGF-1 値がいずれも基準値を満たす場合のみ、疾患コ ントロールが得られているとして、両基準値が達成されない場合は活動性疾患が存在するとして定義されている。興味深いことにAcromegaly Consensus Group は、IGF-1 値は正常であるが成長ホルモン値については十分な低下がみられない術後のケースや、成長ホルモンは十分に抑制されているがIGF-1 値が上昇しているケースでは、追加治療を始めるのではなく同検査を定期的に繰り返すことを推奨している。同じくソマトスタチンアナログ療法施行中にこれらの値に矛盾が認められるケースでも、用量を増加せずに治療を継続するよう推奨している。検査結果に矛盾があれば当然確認する必要があり、また上記の値が中程度に上昇しただけの場合は保存的アプローチを選ぶ可能性があり、追加治療は活動性疾患を有する患者に対してのみなされるべきである。薬物療法によって生化学的にコントロールされている先端巨大性患者の数が増えていることを鑑みると、コンセンサス声明のタイトルは「治癒に対する基準」よりも「コントロールに対する基準」としたほうが適切かもしれない。
どのような基準値を用いるかを論じるにあたっては、成長ホルモンとIGF-1 を測定するためのアッセイの質、性能、解釈が重要な要素となる。標準値を設定するための大規模な参照コホートがないことから、 コンセンサス声明の作成グループはアッセイが標準化されていないことにより重大な矛盾が生じている可能性について懸念をつのらせている。同グループは成長ホルモンおよびIGF-1 アッセイではWHO の国際基 準値を使用し、測定結果はSI 単位(μg/L)を用いて表示するよう勧告している。加えて10 年ごとにIGF-1 の標準値を大規模な対照集団(> 1,000 人)から算出する必要性についても明示している。なお、コンセンサス声明ではホルモン測定の限界点が簡潔に論じられている。
また生化学測定値に関しては、サンプリング法や使用したアッセイの種類、患者の性別、ホルモン半減期といった臨床的に重大かつ明らかな矛盾をもたらす種々の原因について考察が加えられている。コンセン サス声明の作成グループは、測定値が矛盾する患者で死亡リスクが上昇することを示すにはエビデンスが少なすぎることを指摘している。同グループは、こうした患者を臨床管理するには検査を何度も繰り返し臨床状況に応じて治療判断を行う必要があることを示唆している。
さらに本コンセンサス声明では、活動性疾患とコントロールされた疾患の転帰を明確に区別するためのカットオフ値が以前のCortina コンセンサス2 に比べて厳しく設定されている。以前のCortina コンセンサスにはこれまで見放されてきたコントロール不十分の患者カテゴリーも含まれていたが、現在では種々の治療法が利用可能となり、実質的にすべての患者で十分な生化学的コントロールが得られるようになっている。とはいうものの臨床上の観点からすると、(生化学測定値の矛盾や薬物による有害作用、緩徐な再発病変の発現などが原因で)コントロール治癒と活動性疾患の間に位置する患者も存在することが予想される。これらの患者では追跡期間中の疾患コントロールが十分に得られない可能性がある。このように疾患コントロールが「ほぼ」得られた患者では、同コントロールが完全に達成された患者に比べて遅発性の合併症発症リスクが上昇するのかどうかは不明である。それでも活動性疾患とコントロールされた疾患の層別化は、例えば遅発性の臨床転帰と死亡率に関する前向きコホート研究を実施するにあたりきわめて重要な意義をもつと考えられる。
今後の課題としては、これらの勧告を種々の臨床ガイドラインに組み入れる作業が残されている。だが、適切な測定頻度についても回答が得られていない。またソマトスタチンアナログの用量漸増は成長ホルモン値とIGF-1 値を基準とし、ペグミソマント療法はIGF-1 値のみを基準とするよう推奨されている点も重要な問題である。最後に現在作成中の先端巨大症患者登録リストを用いて、特に薬物療法を受けている患者において先端巨大症の治癒基準に関連した遅発性の臨床転帰、再発率、死亡率、費用対効果についてさらなるエビデンスを蓄積することが求められよう。
doi:10.1038/nrendo.2010.129
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