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MEN1 症候群における副甲状腺機能亢進症:いつ手術すべきか

Nature Reviews Endocrinology

2010年10月21日

Parathyroid gland Hyperparathyroidism in MEN1 syndrome time to operate?

Journal of Bone and Mineral Research 誌に、多発性内分泌腫瘍症1 型(MEN1)に伴う原発性副甲状腺機能亢進症で認められる腎および骨合併症の悪性度に関する報告が発表された。これらの知見は、今後のMEN1 患者における副甲状腺疾患治療に影響を及ぼすだろうか。

遺伝性症候群である多発性内分泌腫瘍症1 型(MEN1) は副甲状腺、膵島細胞、脳下垂体前葉などにおける多発性腫瘍の発現を特徴とし、ホルモン性腫瘍による死亡の主な原因となっている1。種々の症候群に関連する遺伝子が発見された場合によくあるように、1997 年にMEN1 遺伝子が同定されて以来、多数の研究が実施されるようになり、MEN1 に関連した病態に対する治療戦略とコンセンサスガイドラインが急速に改良された。高カルシウム血症を引き起こす副甲状腺 腫瘍はMEN1 において最も多く認められる病態であり、患者の95% で生じる3。MEN1 の初発病変としては原発性副甲状腺亢進症が現れることが多く、その好発年齢は20 ~ 25 歳と3、散発性副甲状腺腫の発症 年齢よりも30 年早い。また、治療を行わない場合のMEN1 に伴う副甲状腺腫瘍による死亡率は高いことも知られている4。今回Lourenço らにより、MEN1 に伴う原発性副甲状腺機能亢進症で認められる腎および骨合併症は早期発症型で頻度も高く、広範かつ重篤で進行性であることが報告された5。MEN1 患者に対する副甲状腺摘出術施行の至適タイミングに関してはさまざまな意見があるが、Lourenço らの知見がMEN1 に伴う副甲状腺機能亢進症患者に対する外科的治療に影響を及ぼすことは間違えないと考えられる。

Lourenço らブラジルの研究者らは、MEN1 に伴う原発性副甲状腺亢進症で認められる腎・骨合併症の短期および長期的な転帰を評価するため横断研究を実施した。著者らは、MEN1 変異を有する非血縁の8 家族からコントロール不良の副甲状腺機能亢進症患者36 例(平均年齢38.9 ± 14.5 歳)を抽出し、試験に組み入れた。解析の結果、症候性副甲状腺機能亢進症患者は無症候性患者に比べてBMD が低く(88.9% vs 44.4%、P < 0.006)、また副甲状腺機能亢進症の罹患期間が長い(>10 年)患者は短い患者に比べて橈骨遠位部のBMDが3 分の2 に低下することが示された。 さらに、>50 歳の患者では<50 歳の患者に比べて尿路結石症(尿路に結石が形成される)が早期かつ高頻度に発症し、腎疾患や腎機能障害ともより関連していることが確認された。

Burgess ら6 は、MEN1 に伴う副甲状腺機能亢進症を有する女性では35 歳で骨量低下がみられることをすでに明らかにしており、これはおそらく副甲状腺機能亢進症が早期に発症し長期化したことが原因と推測している。他にも、MEN1 に伴う副甲状腺機能亢進症を有する患者と散発性副甲状腺機能亢進症患者とではBMD の低下パターンに違いがみられることが報告されており、MEN1 患者の骨ではより重大な影 響がみられることが示唆されている。概してMEN1 に伴う副甲状腺機能亢進症では年齢に関係なく広範なBMD 低下が認められ、散発性副甲状腺機能亢進症患者とは対称的に骨梁が早期に消失すること も確認されている。Lourenço らは、MEN1 患者における副甲状腺機能亢進症に伴う骨合併症の発症機序について考察しており、骨代謝をコントロールするjun-D の発現がMEN1 誘導性に増強されることが関 与している可能性を提起している。

MEN1 患者では副甲状腺機能亢進症の自然経過によって腎合併症が生じること、もしくは腎合併症が骨量低下に影響を及ぼすことを報告した研究は限られている。Lourenço らは、尿路結石症の最初のエピソー ドが認められたのはそのほとんどが30 歳以前であったことを明らかにした。これは、MEN1 における腎合併症も若年のうちに発症する可能性があることを示唆している。こうした知見は、2001 年に発行された 国際ガイドライン2 の改訂版に間違いなく盛り込まれるであろう。MEN1 患者の血縁者で症状を発現していない症例のうち、詳細な臨床検査によってMEN1 変異保有者が検出される頻度は50% と推測されているにもかかわらず、実際には18% しか検出されないのは、MEN1 に典型的な病態がこのように早期に発症しているためと考えられる。つまりMEN1 変異 保有者の多くが、おそらくすでに症状を発現させていたのである。

通常、MEN1 患者の副甲状腺では多発性腫瘍が非対称性に認められ、副甲状腺全摘出術もしくは亜全摘出術が必要になることから、明らかな症状を呈する患者に対してのみ手術が施行される傾向がある。Lourenço らのデータにより、副甲状腺摘出術に最も適した患者のタイプと施行タイミングを特定するには早期の個別評価が推奨されることを示すエビデンスがさらに追加された。以上を考え合わせると、MEN1 変異 保有者では腎・骨合併症に関するモニタリングを早期かつ定期的に行うことが求められる。そしてその分析結果を得たうえで、個々の患者において副甲状腺機能亢進症管理についての臨床判断を進めるべきであろ う。

Lourenço らの研究には、対象症例数が少ない、後ろ向き解析である、表現型に地域特異性があるといった限界点がみられた。すなわち、ブラジル国民のビタミンD 欠乏が結果に影響を及ぼした可能性がある。そのため今後は、より大規模で国際的な患者コホートを対象に副甲状腺摘出術の予後評価を含めた前向き試験を実施すべきである。また、腎・骨合併症の悪性度に関する機序についても詳細に解明する必要があろう。それでもLourenço らの研究により、MEN1 に伴う副甲状腺機能亢進症を有する患者の臨床管理および外科的治療の個別化に向けて新たな一歩が踏み出されたのは間違いない。

doi:10.1038/nrendo.2010.131

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