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減量の維持:目標をより高く設定する

Nature Reviews Endocrinology

2010年11月23日

OBESITY Maintenance of weight loss setting our goals higher

全国データに基づく最新の調査報告により、米国成人ではこれまで考えられていたよりも減量が長期的に維持されていることが示唆された。減量プログラムの有益性を再評価する必要はあるだろうか。

あらゆる民族、そして世界中の国々で、肥満症の有病率が性別にかかわらず上昇を続けているのは明らかである。米国におけるBMI > 30 kg/m2 の肥満症の比率は、1976 ~ 1980 年には< 15% であったが2010 年には> 30%に上昇した。こうした有病率の上昇は、 疾患および早期死亡リスクを上昇させることを示唆している。また、小児肥満症の増加がこの問題に関する懸念に拍車をかけ、肥満とその長期的影響を低減させるための戦略を国家レベルで推進することが政策立 案者によって決定された。しかし、長期の減量維持は非現実的な目標なのであろうか。Kraschnewski らのデータから、そうではないことが示唆されている。

肥満症の有病率に関するデータをみると、個々人によって大きく変化しうることがわかる。つまり、体重が増加する人もいれば減少する人もいる。このことは、 小児期以降の体重を追跡した一連の研究によって明らかにされている。体重の実測値から成人での肥満症の発症を予測する予測能は、小児期から青年期に近づくにつれて高くなり、成人期に近づくとさらに向上する。 Deshmukh-Taskar ら3 はBogakusa(Louisiana、米国)に居住する小児を対象に長期の追跡調査を行い、 小児期(9 ~ 11 歳)の体重が最も重い第4 四分位群に属していた児の61.9% が若年成人期(19 ~ 35 歳) にもその群にとどまることを確認した。しかし、同四分位群に属していた児の14.3% では体重が減り、成全国データに基づく最新の調査報告により、米国成人ではこれまで考えられていたよりも減量が長期的 に維持されていることが示唆された。減量プログラムの有益性を再評価する必要はあるだろうか。 人期には第1 または第2 四分位群に移行した。一方、 体重が最も軽い第1 四分位群に属していた児では逆の現象が認められた。すなわち、同四分位群に属していた児の53.8% は成人期に達するまでその群にとどまったが、6.2% は第4 四分位群、15.2% は第3 四分位群へと移行した。このように、小児期の過体重は若年成人期まで維持されることが多いが、そうでない場合もある。

Kraschnewski らは、1999 ~ 2006 年にNational Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)に登録された被験者の自己申告による減量データを解析し、減量とその維持に関する新たな洞察をもたらした。本研究には、自己申告による最高体重が過体重または肥満症の範囲にあった20 ~ 84 歳の14,306 人が組み入れられた。長期の減量維持は、 最高体重の10% 以上の減量が1 年以上維持された場合と定義された。14,306 人のうち、36.6% が5% 以上、 17.3% が10% 以上、8.5% が15% 以上、4.4% が20% 以上の減量を達成し、かつ維持していた。10% 以上の減量維持は、高齢者(75 ~ 84 歳)、非ヒスパニック系白人、女性においてより多く認められた。

本研究からは2 つの問題が提起されよう。第1 に、 本研究では36.6% の被験者が5% 以上の減量を達成し維持したという結果が得られたが、この数値はMekary ら4 がNurses Health Study おいて報告した20.5%、もしくはSarlio-Lähteenkorva ら5 がフィンランドの双子を6 ~ 15 年間追跡して見出した6% に比べるとはるかに高い。この差は2 つ目の問題、すなわち意図的な減量か意図的でない体重減少かという問題に一部起因している可能性がある。Kraschnewski らの研究には、意図的に減量した人のみが含まれていたわけではなかった。著者らは、減量維持に最も成功した群である75 ~ 84 歳群では、他の年齢群と比べて意図的な減量が最も少なかった群でもあったこ とを指摘している。意図的でない体重減少は、重大な基礎疾患検出の指標となることが知られている。一方、意図的な減量は疾患リスクおよび死亡率低減のいずれにおいても有益と考えられている。

肥満症を予防するためには、減量法とそれを長期間維持する方法について正しく理解することが重要である。Kraschnewski らは減量とその維持は達成可能であるというエビデンスを提示したが、その他にも成功を左右する因子についてより優れた知見を示した研究がある。National Weight Control Registry の登録者を対象とした研究では、減量の維持に成功した人が採用していた減量法に焦点が当てられた。減量の成功は、13.6 kg の減量が1 年以上維持された場合と定義された。本研究では身体的活動量の増加、低脂肪食、 体重の自己測定、テレビを見る時間の短縮などが、長期減量の予測因子となることが確認された。

肥満症の問題に対する取り組みとしては予防が最重要であることは間違いないが、予防が失敗した場合には治療が必要となる。Kraschnewski らの結果は、予防および維持戦略によって肥満症の蔓延と治療の必要性が軽減される可能性があるという希望をもたらすものである。しかし、多くの予防プログラムではごくわずかな成功しか得られていない。

ライフスタイルの変更、食事療法、および運動療法による減量の程度は5 ~ 10% である。しかし、肥満症に対する他の治療法と同じく、反応性は個々の患者によって大きく異なり、体重が再び増加するケース も多い。縦断研究のNurses Health Study では、身体的活動量のレベルが減量後の体重の再増加に影響を及ぼすことが示された4。6 年間の追跡調査によりMekary ら4 は、自発的に減量を行った看護師では減量した体重のほとんどが戻ったものの、同期間中に減量を行わなかった女性に比べると体重が減少していたことを明らかにした。自発的に減量を行った女性におけ る体重増加の抑制には1 日30 分の任意の身体的活動量が関連しており、その効果はウォーキングよりもジョギングやランニングのほうが高かった。また、身体的活動量が減少すると体重増加の可能性が高まった。

減量に関するデータを現在10 年分蓄積しているDiabetes Prevention Program において、長期の減量維持についての重要な知見が得られている。本研究ではライフスタイル介入群の体重が1 年後に平均6.9 kg減少しており、同群における体重減少の25 パーセンタイル値は2.6 kg、75 パーセンタイル値は10.0 kgであった。また、3 年後の平均体重はベースラインに比べて4.1kg 減少しており、25 パーセンタイル値はベースラインレベルに戻っていたが、75 パーセンタイル値は依然ベースラインを7.3 kg 下回っていた。介入群の多くが減量を達成し、それを数年間維持していたことは間違いない。本データは、Kraschnewski らの観察結果を裏づけるものである。

Diabetes Prevention Program では、興味深い知見がもう1 つ得られている。2.8 年間の二重盲検比較試験が終了した時点で対照群に対して6 ヵ月間のライフスタイル介入を行うと、2 型糖尿病への進行率が初回介入群と同等のレベルにまで低下する可能性が示唆されたのである。この結果は、1 回の集中的な減量プログラムが長期的なベネフィットをもたらすことを意味している。Kraschnewski らの結果でも同様の結論が導き出されている。すなわち、減量を行った群では最初の減量から数年経過後でも、減量を行わなかった群に比べて体重が少ないことが示された。また、禁煙プログラムとの類似点として、断続的な減量プログラムが成功する可能性も示唆されている。禁煙プログラムの期間中に禁煙を達成する人はほとんどいない。 しかし、プログラムを反復することによって禁煙成功者は増加する。したがって減量プログラム後の緩やかな体重増加を考えれば、断続的なプログラムの妥当性が支持されよう。

費用対効果の高い減量法を実施するための有望な手段については、Christakis とFowler10 の研究からヒントが得られている。著者らは、現代のソーシャルネットワーキング以前の時代には、肥満症が家族や友人らによる社会的ネットワークに沿って広がった可能性があることを示した。肥満症が人から人へ伝播する正確なメカニズムは不明であるが、インターネットやフェイスブック等のソーシャルネットワーキングによってもたらされた社会環境の変化は肥満の促進ではなくコントロールに役立ち、ひいては政府の介入の必要性や減量プログラムのコストを低減させる可能性もある。 こうしたネットワークを利用すれば、個々の患者において減量を支援し、かつ減量後の体重を長期に維持するための新たなツールが得られるかもしれない。

doi:10.1038/nrendo.2010.172

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