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肝疾患:糖尿病の見逃されていた合併症

Nature Reviews Endocrinology

2010年11月23日

NONALCOHOLIC FATTY LIVER DISEASE Liver disease an overlooked complication of diabetes mellitus

最近の研究から、新たに2 型糖尿病の診断を受けた患者では慢性肝疾患の発症リスクが上昇していることが示唆された。2 型糖尿病患者に対するルーチンの評価に、肝疾患のスクリーニングを加えるべきであろうか。

実診療の場では、2 型糖尿病と慢性肝疾患の関連がしばしば見受けられる。肝硬変は種々のメカニズムによって2 型糖尿病の発症に関与することが知られているが、一方、糖尿病自体がおそらく非アルコール性 脂肪肝疾患(NAFLD)を進行させ、その結果、肝硬変を引き起こす可能性が最近になって認識されるようになってきた。こうした見解を裏づける優れたエビデンスが、今回、カナダのPorepa ら3 により示された。著者らは、新たに2 型糖尿病の診断を受けた成人では、実際に一般集団に比べて進行性慢性肝疾患の発症リスクが上昇していることを明らかにした。

NAFLD は、過度のアルコール摂取がなく(任意の定義により女性で< 20 g/日、男性で< 30 g/日)、ウイルス性肝炎や薬物といった脂肪肝または慢性肝疾患に関連する他の特定の原因が認められない状態で、肝臓にトリグリセライドが蓄積する臨床病理学的病態を表す4。NAFLD には、単純性脂肪肝(通常、肝生検標本の光学顕微鏡検査で脂肪含有肝細胞が> 5% の割合で認められ、かつ炎症を伴わない場合と定義される)から、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(脂肪肝+壊死性炎症性変化および/ またはさまざまな程度の肝線維化を特徴とする)までの一連の組織学的異常が含まれる。NASH はより侵襲性の高い疾患であり、肝硬変および肝細胞癌への進展リスクを有すると考えられている。

NAFLD は現在、世界で最も多くみられる肝疾患とされており、同疾患への罹患は肝臓関連死亡率の上昇に関連することが知られている。疫学的データによれば、NAFLD の有病率は西洋諸国で高い6。最新のデータからは、一般集団の最大30% がNAFLD に罹患していること、一方、NASH の有病率、すなわち肝硬変への進展リスクを有する比率にはバラツキがみられること(10 ~ 20%)が示唆されている7。いくつかの縦断研究によって、NAFLD の自然経過が明らかにされている。単純性脂肪肝患者では重度の線維化または肝硬変が発現するリスクはきわめて低いが、NASH 患者では最大38%において重度の線維化が生じる。

2 型糖尿病患者は一般集団に比べてNAFLD の発症リスクが高く、NASH および重度の線維化も発現しやすい傾向にある。実際に、2 型糖尿病患者におけるNAFLD の有病率は49.0 ~ 62.0% で、うち12.2% がNASH と診断されることが報告されている。これらの知見は、NAFLD が2 型糖尿病患者において高頻度にみられる疾患であることを示しており、そのため同患者集団では慢性肝疾患の発症リスクが上昇している可能性があることが推測される。こうした見解が、今回、Porepa らの研究によって裏づけられたのである。

Porepa らは、オンタリオ州(カナダ)の保健管理データベースを用い、新たに糖尿病の診断を受けた成人患者438,069 例を特定した。また、背景因子をマッチさせた非糖尿病者(2,059,708 人)を5:1 の比率で組み入れ、対照群とした。主要評価項目は、中央値6.4 年の追跡期間中における肝硬変、肝不全、肝硬変の合併症、もしくは肝移植を要する重大な肝疾患の発症であった。糖尿病発症群では対照群に比べて肝疾患の発症リスクが有意に上昇した[未補正ハザード比(HR)1.92(95%CI 1.83 ~ 2.01)]。この関連性は、肝疾患の発症リスクに影響を及ぼす可能性があるその他の因子[年齢、性別、居住地(都市部または農村部)、所得水準]による補正後も有意であった(HR 1.77、 95%CI 1.68 ~ 1.86)。注目すべきことに、糖尿病は脂質異常症、肥満、もしくは動脈性高血圧の有無にかかわらず重大な肝疾患の発症リスクを上昇させ、かつ、 同リスクはこれら3 つの疾患のいずれかが単独で存在する場合よりも高かった。

Porepa らの研究の限界として、1 型糖尿病患者と2 型糖尿病患者が区別されていなかったこと、対象集団の人種データが報告されていなかったことが挙られる。さらに、関連する研究で因果関係が証明されなかった点についても議論の余地があろう。また、一部の糖尿病患者では試験登録の時点ですでに無症候性の肝硬変が発現していた可能性があり、そのため糖尿病は慢性肝疾患の原因ではなく結果であった可能性がある。しかし、NAFLD と重度の線維症または肝硬変への進展リスクに関する基礎および臨床データ5,10 からは、糖尿病患者におけるNAFLD と重大な肝疾患の発症リスクとの間に因果関係が認められることが強く示唆されている。この仮説を確認するためには、大規模な前向き研究の実施が不可欠であろう。

2 型糖尿病と脂肪肝における診断においては、NASH(進行型のNAFLD)またはそれまで認識されていなかった初期の肝硬変の存在(すなわち、肝硬変合併症または肝細胞癌の発症リスクを伴う)をいかに 診断するかという問題が主なジレンマとなっている。重要な点として、2 型糖尿病患者では重度の線維化が発現している可能性があるため、血清アミノトランスフェラーゼ値が正常だからといって肝疾患を除外することは適切ではないと考えられよう。これまで肝生検は、NASH、重度の線維化、または肝硬変が、その他の診断法では特定されなかった場合に確定診断を行うためのゴールドスタンダードとして用いられてき た。しかし、肝生検は侵襲的である。そのため、肝生検を処方したがらない医師も多い。ガイドラインが作成されていないことから、肝生検の是非は患者ごとに十分に検討する必要がある。幸い、NAFLD において進行中の肝障害または肝線維化を評価するための非侵襲的方法、例えばアポトーシスの血漿バイオマーカーや新しい画像検査法などが現在開発されており、それらの実診療への導入が待ち望まれている。

概してPorepa らの研究結果から、肝疾患がこれまで見逃されてきた2 型糖尿病の合併症の1 つである可能性が明らかにされた。Porepa らによってNAFLD が慢性肝疾患を引き起こす主要な寄与因子と なることを示す直接的な証拠は得られなかったが、他の研究データでは、2 型糖尿病がNAFLD から進行性慢性肝疾患への進展とより密接に関連することが示唆されている。2 型糖尿病の管理に関する現行のガイ ドラインでは、これらの患者における慢性肝疾患の潜在的リスクについて触れられていない。よって、2 型糖尿病患者を治療する医師に対しては、同患者集団において慢性肝疾患を引き起こす最大の原因となりうるNAFLD に関する知識を十分に提示し、この病態に関する認識を高める必要がある。

doi:10.1038/nrendo.2010.173

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