脳卒中におけるインターロイキン17および脳損傷
Nature Reviews Neurology
2009年10月1日
Stroke Interleukin-17 and brain injury in stroke
脳卒中の24 時間以内に梗塞領域に集合するT リンパ球は、脳虚血再灌流(I-R)障害の進行に重要な役割を果たすことが示唆されている。今回、日本の研究 者らが、インターロイキン(IL)23 - IL-17 系が脳卒中後の脳炎症において不可欠であることを初めて示した。「梗塞部位に浸潤するマクロファージによりIL-23 が産生され、IL-17 は、これまで考えられていたようにCD4+ヘルパー細胞に産生されるのではなく、γδT 細胞により産生される」と、統括著者である吉村昭彦(慶応大学医学部)は述べている。
著者らは、様々なインターロイキンを欠失し誘発性I-R 障害を有する遺伝子組換えマウスを用いて、IL-23 発現量は脳卒中発症初日に上昇するが、IL-17発現量は脳卒中発症後3 日目に初めて増加することを 示した。IL-17 産生の誘導は、IL-23 発現量の増加に依存した。マウスにおいて、免疫調節作用のあるプロドラッグFTY720 を使用することにより脳虚血誘発直後のT リンパ球の脳への浸潤を阻害した結果、脳障害が対照と比べて抑制された。これらの結果を合わせると、IL-23 は脳I-R 障害の急性期に活性があるが、IL-17 はI-R 障害の遅延相、すなわち脳損傷のペナンブラにおいてニューロンがアポトーシスを起こし始める時期に重要性が高いことが示唆される。
「現在、抗IL-23 抗体の効果を調べる計画をしている。抗IL-23 抗体は、カナダではすでに乾癬患者に対して承認されているが、脳卒中後の脳梗塞の亜急性期における治療法として初の成功例になる可能性があ る」と吉村は予測する。著者らはさらに、どのような刺激がIL-23 発現量を増加させるのかを明らかにすることに注力する予定である。「TLR4[Toll 様受容体4]が脳虚血障害に関与している可能性が示されている。損傷を受けた脳由来の内因性リガンドがマクロファージのTLR4 を活性化し、これによりIL-23 分泌が誘導されている可能性が高い。このプロセスを阻害できれば、脳障害を抑制できる」と吉村は説明している。
別の重要な疑問として、IL-17 がどのように神経細胞のアポトーシスを促進するかということが挙げられる。本研究では、IL-17 は、より直接的な毒性作用を示すIL-1 とは異なり、神経細胞アポトーシスを直接には誘導しないことが示唆されている。「IL-17 は様々な細胞型においてIL-1 産生を誘導するのではないかと考えられる。IL-17 は、内皮細胞を活性化している可能性もあり、プロスタグランジンE2 合成に関与していることも考えられる」と吉村は言う。各プロセスをさらに十分明らかにし、IL-17 の神経毒性作用について理解する必要がある。
なすべきことは数多く残されているが、本研究により、脳損傷を促進し、時には致死的ともなる脳卒中後の二次性炎症の抑制に役立ついくつかの新たな治療経路が示唆されたと、吉村は指摘する。
doi:10.1038/nrneurol.2009.148
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