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脳卒中:ABCD システムを利用した一過性脳虚血発作の評価

Nature Reviews Neurology

2009年9月1日

STROKE Using the ABCD system to evaluate transient ischemic attack

ABCD システムは、一次医療または救急医療における臨床症状を用いて、一過性脳虚血発作後急性期における脳卒中リスクを確実に予測する。さらに研究を重ねることにより、頸動脈および脳の画像検査を含む改良システムの有効性を示すとともに、診療における改良システムの実施方法を提案する必要がある。

一過性脳虚血発作(TIA)後の脳卒中リスクは、7 日目で約5%、3 ヵ月後で10 ~ 15%と推定されている。TIA 疑い例の臨床評価の目的は、診断を下して病因を確認し、これにより予後を推定するとともに短期および長期の脳卒中二次予防の適切な計画を立てることである。しかし、TIA に対する臨床評価の緊急性および治療環境の設定に関する指針は国により異なっており、ある医療システムでは入院を推奨し、別のシステムでは外来による診断・治療が望ましいとしている。ABCD システム(ABCD、ABCD2、ABCD2-I スコア)は、TIA 後急性期における脳卒中リスクを予測できる一連の予後評価ツールである1,2。英国においては、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence)により、ABCD2 スコアが4 以上であるTIA 患者については、二次医療に おける緊急評価(24 時間以内)を推奨し、スコア4 未満の患者については7 日以内の評価を推奨している。このほかの国内および国際臨床ガイドラインでも、本スコアを患者のトリアージに用いることが推奨されているが、「緊急」評価のカットオフ値はさまざまであり、また緊急評価後の患者の評価方法についての推奨事項も異なっている。今回、Amarenco ら4 は、TIA 患者のトリアージにおいてABCD2 スコア「4」がカットオフ値として有効であるかどうかを検討した。

最初のABCD スコアは2005 年に作成およびバリデーションされた1。2007 年には、予後因子として糖尿病を追加することにより改良(およびさらにバリデーション)された(ABCD2 スコア、Box1)。 ABCD システムは、一次医療および救急医療現場において使用し、TIA 後に脳卒中を経験するリスクが高いか低いかを特定するためにデザインされている。その情報をもとに、専門医療へのトリアージを決定し、 対象を絞った脳卒中の二次予防治療を実施することができる。初期評価時に特定可能な臨床症状を基礎に置き、複雑な検査の結果は意図的に含めなかった。これは、本スコアが、専門治療における評価に先立って患者を評価することを目的としているためである。また、本スコアには、患者自身が緊急受診を要するような早期脳卒中リスクが高い症状を特定することによって、公衆教育キャンペーンを周知する目的もあった。発表以来、一連の外部バリデーション試験が実施され、試験の結果に基づくさらなる改良点が提案されている。改良の内容としては、TIA 病因の組み入れおよび脳虚血の有無などが挙げられ(ABCD2-I スコア)、これにより本システムの使用を専門医療に拡大できると考えられる。

Amarenco ら4 は、SOS-TIA サービスに紹介されたTIA 患者のコホートを対象に、ABCD2 スコアの使用を検討した。SOS-TIA サービスとは、パリの教育病院を拠点とするTIA 専門クリニックであり、脳 血管神経学専門医による評価と標準化された検査を24 時間体制で提供している。著者らは、ABCD システムを用いて、緊急治療を必要とする可能性のある基礎病理を有するTIA 患者を特定した。基礎病理 は、症候性頭蓋内または頭蓋外血管狭窄率が50%以上または心原性脳梗塞の主原因の存在(主に心房細動)と定義された。患者全例に、ドプラ超音波検査または磁気共鳴血管造影(MRA)による頭蓋内および 頭蓋外の血管造影、MRI またはCT による脳画像検査、心電図検査、心エコー検査などの詳細な検査を実施した。患者1,176 例のうち497 例(39%)において、ABCD2 スコアが4 以上であった。前述の基礎 病理の保有率は、ABCD2 スコア4 以上の患者のほうが4 未満の患者より高かった(症候性頸動脈狭窄率が50%以上については13.7% vs. 9.1%、P < 0.05、症候性頭蓋内血管狭窄率50%以上については7.7%vs. 5.0%、P = 0.06、心房細動は10.7% vs. 5.9%、P< 0.05)。同様に、最終的に頸動脈内膜剥離術を受けた患者の割合も、ABCD2 スコアが4 以上であった患者のほうが高かった(5.6% vs. 3.5%、P < 0.05)。ABCD2 スコアが4 未満の患者と比べて、ABCD2 スコアが4 以上の患者は、年齢が高く(71 歳 vs. 60 歳、P < 0.001)、軽度脳卒中を経験した割合(11.9% vs. 1.3%、P < 0.001)または脳画像上で急性梗塞を示す割合(17.3% vs. 8.8%、P < 0.001)が高く、脳卒中、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患の既往などの血管系リスク因子を保有する割合が高かった。

同じSOS-TIA コホートを対象とした既発表研究5で、ABCD2 スコアにより脳卒中が予測されたことが報告されており、Amarenco らの研究の新たな分析では、ABCD2 スコアが高いほど重大な基礎病理の保 有率が高かった。しかし、Amarenco らは、ABCD2スコア4 未満の患者においてもそうした病理の発生率は許容できないほど高いため、緊急評価または日常的評価への振り分けは、ABCD2 スコアだけでなく 頸動脈画像検査および心電図(ECG)に基づくべきであると主張した。この結論は、ABCD2 スコアの低い患者でも重大な基礎病理があれば早期脳卒中リスクと関連が高いと考えられ、したがって緊急治療が必 要であるという暗黙の前提に基づいている。だが実際、この問題を検討した唯一の既発表研究では、低ABCD2 スコア患者は重大な基礎病理の保有率が高かったが、それにもかかわらず、早期脳卒中リスクはき わめて低かったことも明らかにされている。言い換えれば、ABCD2 スコアは基礎病理に関係なく脳卒中リスクを確実に予測できるということである。残念なことに、Amarenco らによる報告では、この事実が Amarenco らの研究にもあてはまるかどうかについて示さなかった。さらに、TIA 患者の評価に体系的な頸動脈超音波検査やECG 検査を含めることの実用性についても考察されなかった。

TIA 後患者の二次医療における緊急評価の使用が限られている医療システムでは、トリアージの実施は避けがたいが、トリアージは早期脳卒中リスクの予測に基づいて行う必要がある。現在、ABCD2 スコアは、 このような患者において脳卒中リスク予測に最も信頼のおけるツールであると考えられる。既発表研究において、ABCD2 スコアは診断要素を備えており、TIA患者と別の診断を受けた患者を識別するが、そのスコ アが高いほど脳梗塞や大動脈疾患との関連も高くなることが示されており、とりわけAmarenco らの研究ではこの傾向が明確である。大規模前向き研究を実施して、ABCD2 スコアと脳および血管の画像検査 をいかに結びつければ、二次医療における最適な予後評価ツールを作製できるかを判断する必要がある。しかし、TIA 後の患者の評価には段階的な方法が必要であることが明らかである。それによって、入院前段 階で利用可能な臨床データ(ABCD2 スコア)を用いて早期脳卒中リスクを推定し、その後の専門治療における検査データ(ABCD2-I スコア)を用いて、その推定値の精度をさらに向上させ、長期リスクを算出する。

doi:10.1038/nrneurol.2009.134

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