脳卒中:脳内微小出血は脳卒中予防に影響を与えるか
Nature Reviews Neurology
2009年11月1日
STROKE Will cerebral microbleeds influence stroke prevention?
高血圧性脈管障害や脳アミロイド血管症のマーカーとして知られている脳内微小出血は、年齢と共に発生率が上昇する。脳内微小出血は特に脳内出血患者に多く、人口ベースの横断研究から、抗血小板薬の使用と正の相関をもつことも示されている。
抗血小板薬や抗凝固薬は、心血管疾患や脳血管疾患の高リスク患者に対して有効で安全であることが示されているが、これらの治療で脳内出血が発生しやすくなる可能性もある。それぞれの患者のリスクを層別化 し、抗血栓薬の抗虚血作用と易出血作用のバランスをとることが、現在も脳血管治療の主な目標となっている。この分野は知識が不足しているため、さまざまな患者や集団における脳内微小出血の意義に関心が寄せられている。
脳内微小出血とはマクロファージ内のヘモジデリン沈着であり、MRI のグラディエントエコー(GRE)T2* 強調画像で、小さな低信号域として容易に検出できる。脳内微小出血の臨床的意義は現在のところ明 らかになっていないが、小血管の疾患、特に高血圧性脈管障害や脳アミロイド血管症のマーカーとして認識されている。微小出血の発生率は、脳内出血患者で特に高い。Rotterdam Scan Study において、今回Vernooijらは脳内微小出血が抗血栓薬を使用している人に特に多いという知見を示している。著者らの疑問は、抗血栓治療が脳内微小出血を有する人の症候性出血リスクを増加させるかどうか、ということであった。
Vernooij らはRotterdam Scan Study における認知症を有しない患者1,062 例を対象に、横断的分析を行った。MRI で脳内の微小出血を検出し、抗血栓薬(抗血小板薬や抗凝固薬)の使用との関連を評価した。1.5T MRI 装置で高解像度三次元GRE のT2* 強調画像を用い、ヘモジデリン沈着を検出、試験集団の4 分の1 近くが脳内微小出血を有していることが示された。これらの微小出血は脳葉とともに、より深部またはテント下にも分布していた。分析により抗血栓薬使用者は、非使用者に比べて脳内微小出血を有する傾向が強いことが示された。さらなる分析では、抗血小板薬使用者では、非使用者よりも高い頻度で脳内微小出血が検出されることも示された。抗凝固薬のみを使用していた61 例ではそのような関連は示されなかった。この試験で患者が使用していた抗血小板薬はアスピリンやカルバサラートカルシウムであった。脳葉内微小出血は、アスピリン非使用者よりも使用者のほうで多く認められたが、カルバサラートカルシウムの使用と脳葉内微小出血との間に同様の関連性は認められなかった。アスピリンとカルバサラートカルシウムはともに同じ活性成分であるサリチル酸を有していることから、この結果は興味深い。ただし、カルバサラートカルシウムはアスピリンよりも出血リスクが低いことが知られている3。対照的に、カルバサラートカルシウム使用者は非使用者よりも梗塞が多く、白質病変の量が大きかった。このような特徴はアスピリン使用においては認められなかった。
この10 年間、脳内微小出血に関する疫学的研究が増加している。Rotterdam Scan Study グループの報告において、脳内微小出血は一般集団でよく認められる事象であり、一般的な脳血管疾患と同様、加齢とともに増加するようだということが確認された。脳内微小出血は特に脳卒中患者に多く、その検出頻度は特発性脳内出血の既往歴のある患者で最も高い(表1) 。
脳内微小出血の量が増加すると、脳内出血のリスクも上昇する。したがって、抗血栓薬のような、脳内微小出血の発生率に影響する因子を同定することは重要である。残念ながらVernooij らの試験は横断研 究であるため、抗血小板療法と脳内微小出血の間の因果関係について明確な結論を引き出すことはできない。ただし微小出血と抗血小板薬使用との正の相関は、交絡因子である可能性がある投与薬剤の適応について補正した後もなお残っていた。虚血性脳卒中患者で、5 個以上の脳内微小出血を有し抗血栓薬を使用している患者は、脳内出血のリスクが高いことが示唆されている。このリスクは抗血栓薬による抗虚血作用の有用性を上回るかもしれない。しかしこの結論は、転帰として発現した脳内出血15 件のみが根拠となっている(抗血小板薬使用患者14 例、抗凝固薬使用患者1例)。抗血小板薬が脳内微小出血のリスクを上昇させるかどうかを判断するには、もっと大きな縦断的データセットと無作為化対照試験が必要である。興味深いことに、カルバサラートカルシウム使用が脳葉内微小出血リスクの上昇と関連しないという結果は、カルバサラートカルシウムを使用する患者はアスピリンを使用する患者よりも出血する傾向が小さいということを示唆している。しかし出血が減少しているということは、カルバサラートカルシウムがアスピリンよりも抗血小板薬として弱いことを示している可能性もある。
Vernooij らの試験で抗凝固薬使用と脳内微小出血との関連が何も認められなかったことについては、解釈に注意が必要である。韓国で実施されたある小規模の症例対照研究においては、ワルファリンに関連する 脳内出血を有する患者24 例のほうが、ワルファリン投与中の対照患者48 例より脳内微小出血の頻度が高かった。脳内微小出血は脳葉内出血リスクの上昇と関係しており、ワルファリンによる脳内出血は通常 脳葉で発生する。つまり、脳内微小出血は、これらの症例における脳内出血の根本的な原因であった可能性がある。Vernooij らの試験で抗凝固薬と脳内微小出血に関連が見られなかったのは、単に抗凝固薬使用者(n= 61)が試験の対象集団1,062 例の中で少数だったということを反映しているだけなのかもしれない。著者らは、破れた小血管を塞ぐためには、凝固因子による血栓の安定化よりも血小板凝集のほうが重要なので、抗血小板薬よりも抗凝固薬のほうが脳内微小出血を発生しにくいのかもしれないという仮説を唱えている。
血栓溶解治療を受けている患者のうち出血リスクが高い人を脳内微小出血の有病率で予測するというアイデアは、完全には実現化していない。しかし脳葉内出血患者を対象にした詳細な神経病理学的観察より、 微小出血は単なる小さな出血ではないことが示唆されている。原発性脳葉内出血患者群における出血量の分布は二峰性を示す。さらに脳アミロイド血管症による脳葉内出血患者において、微小出血が多い患者は、 少ない患者よりもアミロイド陽性血管の血管壁が厚かった。もし脳内微小出血と脳内出血の間に重要な違いが存在するならば、微小出血を出血の代替評価項目として使用する考えは改め、他の臨床評価項目を適 宜使用しなければならないだろう。
要約すると、Vernooij らの試験から、抗血小板薬の使用と脳内微小出血の発生率の関連について重要な情報が得られた。脳内微小出血の起源と関連性は詳細が明らかになっていないため、この情報は非常に興味 深い。今後Vernooij らの知見を基にした対照試験が実施されれば、小血管性脳血管疾患の予防戦略開発に影響を与えるかもしれない
doi:10.1038/nrneurol.2009.165
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