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プリオン病:プリオン病における脳MRI の研究

Nature Reviews Neurology

2010年1月1日

PRION DISEASE Brain MRI studies in prion disease

プリオン病は致死的で治療不能の脳神経変性疾患であり、他の脳疾患に似た症状を呈することがある。プリオン病では初期段階での治療が最も有効となる可能性が高いが、現在のところ簡単な早期診断方法はない。しかし新しい研究成果によって、脳MRI が診断の一助となる可能性が示されている。

プリオン病の確定診断には、生存中に脳生検を行うか、死後脳を調べることによる神経病理学的な確認が必要である。プリオン病の臨床診断基準は提唱されており、評価も行われている。これらの基準は、特有 の臨床的特徴と補助的検査の結果、特に脳波検査と脳脊髄液蛋白検査の結果と関連している。脳MRI は他の診断を除外する際にきわめて重要な役割を持っており、ある特定のプリオン病、変異型クロイツフェル ト・ヤコブ病(vCJD)の診断での有用性が示されてきた。Brain 誌で発表された新しい研究結果で注目を集めているように、他のプリオン病、特に孤発生CJD(sCJD)の診断において脳MRI が果たす積極的 な役割が現在明らかになりつつある。

イタリアのある神経センターにおいて、Lodi らは拡散強調画像(DWI)とプロトン磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MRS)を用いて、臨床的にプリオン病が疑われる連続症例29 例を対象に研究を行っ た3。最終的に14 例がMRI 以外の方法でプリオン病と診断され、他の15 例はほとんど他の神経変性疾患か炎症性または自己免疫性脳症であった。また10例の健常被験者についても研究した。著者らはプリ オン病群と非プリオン病群のMRI 結果を比較し、プリオン病に対し、DWI(線条体または大脳皮質における高信号域)で高い感度(86%)と特異度(87%)が得られることを見出した。1H-MRS において、カ ットオフ値を設定した視床N-アセチルアスパラギン酸:クレアチン比と視床N-アセチルアスパラギン酸:ミオイノシトール比を用いると、それぞれ被験者の90%および86%を正確に診断することができた。 1H-MRS のみ、またはDWI と1H-MRS の組み合わせでより良い結果が得られ、DWI と1H-MRS の組み合わせでは、症例分類の正確度は93%であった。したがってDWI と1H-MRS はプリオン病の非侵襲 的診断法として有用である可能性がある。彼ら以前に報告されているプリオン病におけるMRI の研究では、比較的新しいMRI 技術であるDWI は含まれていなかったか、限られた症例数でのDWI 結果の報告しか なかった。1H-MRS は、このような観点で体系的に評価が行われたことがなかった。

「プリオン病」という用語は、これらの疾患においてプリオン蛋白が重要な役割を果たすことに由来する。しかしさまざまなタイプのプリオン病が存在し(表1)、1 つのタイプの中でも著しい臨床病理学的な 差異が認められる。遺伝性プリオン病の表現型の違いから、3 つの異なる疾患名が生まれている。CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann–Sträussler–Scheinker syndrome)、致死性家族性不眠症である(表1)。ヒトプリオン病で群を抜いて多いのはsCJD で、遺伝的特徴や蛋白の特徴と関連した著しい臨床病理学的異質性を示す。プリオン蛋白遺伝子(PRNP)で多く見られる多型はメチオニン(M)またはバリン(V)をコードするコドン129 であり、MMまたはVV ホモ接合とMV ヘテロ接合の3 種類の遺伝型があり得る。さらにsCJD 患者の脳にみられる、疾患に関連した異常プリオン蛋白には、主に2 つの分子形態(I 型とII 型)があり、合計6 種類の分子遺伝学的サブタイプがあり得る。こうしたサブタイプの違いが臨床的な研究における結果の違いと関連するという事実は、すべてのMRI 研究において考慮に入れる必要がある。

Lodi らの研究は小規模(プリオン病症例14 例)であるだけでなく、あまり典型的ではない集団を対象にしている。プリオン病症例のうち3 例は遺伝性(1 例は非常にまれな致死性家族性不眠症)であり、 sCJD の11 例もsCJD 全体を代表しているとは言えない。この11 例のうち4 例(36.4%)のPRNP 129遺伝型がMM、4 例(36.4%)がVV、3 例(27.2%)がMV であった。より一般的にはsCJD 患者の約72%がMM、11%がVV、17%がMV である。この研究の症例のうち、sCJD で最も典型的であるMMI型は2 例のみであり、また1 例はMM2-T 型と呼ばれるsCJD 患者の1%にも満たない型であった。症例 群の性質が典型的でないことは罹病期間にも現れている。sCJD患者9 例の平均罹病期間は12.2 ヵ月であり、他の2 例は17 ヵ月を超えて生存していた。多くの国のsCJD患者の平均罹病期間はおよそ4.5 ヵ月であり、PRNP 遺伝子型やプリオン蛋白の型など、多くの独立因子が関連している。Lodi らの研究の対象であった集団の性質が典型的でなかったため、結論を一般化することには疑問が持たれる。

実質的に規模がより大きく、疾患のタイプについてより実態に近いMRI 研究が、Lodi らの研究のすぐ後に発表された。Zerr らはsCJD 患者436 例と対照141 例のMRI 所見を検討した4。フレア法(FLAIR: fluid-attenuated inversion recovery)およびDWI シーケンスにおける新線条体と大脳皮質の信号の変化を基にあらかじめ設定した基準を用いることで、症例の83%でMRI 陽性の結果が得られた。この研究におけるPRNP 129 遺伝型の割合は、MM 62.7%、MV 18.6%、VV 18.6%であり、Lodi らの研究よりもsCJD 集団全体の実態に近い。この結果に基づき、Zerr らは、こうしたMRI 異常所見を診断の補助として用いるよう現在の臨床診断基準を修正することを提案している。

プリオン病に対して開発されている治療法はいずれも、疾患の早い段階において最も有効である可能性があり、迅速な診断を必要としている。それゆえ疾患の経過の中でMRI の異常所見が現れる時期を理解する ことが重要なのである。Lodi らの研究では、MRI による評価が行われたのは発症後平均8 ヵ月(中央値6 ヵ月)であった。これは一部には、彼らが扱った症例の罹病期間が非典型的に長かったことが影響している。Zerr らの研究では、MRI による疾患の評価は発症後中央値2.7 ヵ月に行われたが、これでも平均的なsCJD 疾患の罹病期間の半分を超えている。したがってMRI は、もっとも治療が有効であろう疾患のごく初期段階では、診断の補助にならない可能性がある。当然ながら、臨床現場においては、適応となる症候性の脳疾患が生じたときにのみMRI は行われる。このことが、有用なMRI 上の変化が疾患の初期段階で生じているのかどうか見出すことを難しくしている。

プリオン病における脳画像診断はここ数年で大きく前進した。当初画像は、可能性のある他の診断を除外することを主たる目的としていた。vCJD が顕著なMRI 異常所見「視床枕徴候」と関連していると いう特別に幸運な発見がなされ、頻度のさらに高いsCJD の診断におけるMRI の役割が、現在重要となりつつある。この進歩の背景には、強力なMRI 装置やDWI のような新しいMRI シーケンスの開発があ る。これらの開発には必然的に問題が付随している。同等のMRI 装置で得られるデータ間で比較が必要となることや、方法の標準化の問題などである。

Lodi らは、近代的なMRI 部門であれば比較的簡単・迅速に実施できるMRI 技術、1H-MRS に関するユニークな知見を報告した。1H-MRS はN-アセチルアスパラギン酸(ニューロンマーカー)やミオイノシ トール(グリアマーカー)を測定することができる。sCJD におけるこれらのマーカーの先行研究はほとんど症例報告に限られていたが、Lodi らは疑いのある連続症例の集団を調べた。彼らの研究結果がさらな る研究を刺激し、診断における1H-MRS の有用性や、さらに一般的なMRI 研究におけるその役割が明らかになるだろう。

doi:10.1038/nrneurol.2009.212

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