Research Highlights

PINK1 はパーキンソン病において機能不全ミトコンドリアをオートファジーの標的にする

Nature Reviews Neurology

2010年4月1日

PINK1 targets dysfunctional mitochondria for autophagy in Parkinson disease

PLoS Biology に発表された報告は、PTEN-induced putative kinase 1(PINK1)は機能不全ミトコンドリアの選択的オートファジーに関与するというエビデン スを提供している。PINK1 遺伝子の劣性突然変異は、家族性パーキンソン病(PD)症例と関連付けられており、したがってこの研究は、この病態におけるミトコンドリアの関与をさらに裏付けるものである。

PD は、運動緩慢、固縮および振戦といった運動および姿勢症状によって特徴づけられる慢性の神経変性疾患である。多くのデータから、運動症状の根底にある原因は黒質におけるドパミン作動性ニューロンの変性であることが示されているが、なぜ変性するのかについてはほとんど知られておらず、根本的治療法も存在しない。

E3 リガーゼであるパーキンとミトコンドリアキナーゼであるPINK1 をコードする遺伝子の突然変異は、家族性パーキンソン病と関連することが知られており、研究結果はこれら酵素の変異体とミトコンドリア 機能不全との関連も示唆している。さらに、ミトコンドリア機能不全が弧発性PD 症例に一部関与している可能性が、いくつかのエビデンスから示唆されている。したがって、ミトコンドリア機能の調節異常がどのようにドパミン作動性ニューロンの変性に関連しているかの解明は、この病態の治療法の開発に有用であると考えられる。

米国NIH のRichard Youle らは、パーキンは損傷ミトコンドリアのサイトゾルから表面に移行することをすでに明らかにしている。「われわれは、パーキンのミトコンドリアへの移行は、損傷を受けたミトコン ドリアのオートファジーによる除去を活性化することも見出した。このことからパーキンは、損傷を受けたミトコンドリアの選択的除去によりミトコンドリアの品質管理に関与していることが示唆される」とYoule は説明している。どのような方法でパーキンが機能不全ミトコンドリアのオートファジーを誘導したかは不明であるが、PINK1 はミトコンドリアの表面に局在することが知られており、またショウジョウバエ (Drosophila)を用いた複数の研究では、PINK1 がパーキンの上流で関与していることが示されている。したがって、PINK1 とパーキンはいずれも、機能不全ミトコンドリアのオートファジーによる分解における不可欠な構成要素と考えられる。

この仮説を検証するため、Youle らは培養細胞における標準的な臨床検査を行い(免疫細胞化学および逆転写酵素PCR を含む)、PINK1 およびParkin 突然変異がミトコンドリアのオートファジーに及ぼす影響について検討した。Youle は「PINK1 が損傷ミトコンドリアを同定する新しいメカニズムを明らかにする所見を発見できなかった。PINK1 は構成的に産生され、すべてのミトコンドリアに送られるが、そこで速やかに分解を受ける。ミトコンドリアが損傷を受けるとPINK1 の分解は停止し、特に損傷を受けたミトコンドリアでPINK1 の濃度が急速に上昇し、パーキンの動員を促進する」と報告している。

分極状態のミトコンドリアにおけるPINK1 の選択的蛋白質分解、および機能不全ミトコンドリア膜(慢性的に分極状態にある)の選択的安定化のメカニズムは十分には解明されていない。しかし、Youle ら はin vitro 実験により、ミトコンドリア外膜におけるPINK1 発現は、サイトゾルから損傷ミトコンドリアへのパーキンの移行に必要なだけでなく、損傷オルガネラへのパーキンの移動を十分に引き起こすことを明らかにした。さらに、PINK1 は損傷ミトコンドリアのパーキン介在性除去に必要である。疾患を引き起こすパーキン遺伝子(Parkin)の突然変異は、パーキンの動員とパーキン介在性オートファジーを著明に抑制することが示され、PINK1 突然変異は、パーキンの動員を大幅に抑制することが示された。これら後者の結果は、PINK1 とパーキンはミトコンドリア表面で相互作用する可能性を示しているが、この相互作用の正確な本質はいま未だ確定されていない。

このPINK1 -パーキン経路はどのようにミトコンドリアの分解をコントロールしているのか、またPINK1 とParkin の突然変異が弧発性PD の発症にどの程度影響を及ぼすのかを完全に解明するためには、 さらなる研究が必要なことは明らかである。この目標を達成するために、Youle は「PINK1 とパーキンがミトコンドリアの品質管理経路を調節しているというわれわれのモデルを、PD の動物モデルで確認することが重要となるだろう」と述べている。PINK1 とパーキンはいずれもさまざまなタイプの細胞で広く発現されているため、将来の実験では、ドパミン作動性ニューロンは他の細胞型よりもPINK1 とパーキンの機能喪失型突然変異に対して感受性が高いのはなぜか、という問題に取り組むべきである。

doi:10.1038/nrneurol.2010.19

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