症候性頸動脈狭窄に対するステント留置術と比較した早期の試験成績が示す外科手術の優位性
Nature Reviews Neurology
2010年5月1日
Stroke Early trial results favor surgery over stenting for symptomatic carotid artery stenosis
最近のThe Lancet に掲載されたinternational Carotid stenting study(ICSS)の中間解析の結果では、症候性頸動脈狭窄を有する患者ではステント留置術よりも動脈内膜切除術が安全性の高い治療選択肢であることが示唆されている。この結果では、2 つの手技の間に安全性の差異が観察され、ステント留置術を施行した患者群では、治療後における後遺障害を伴わない脳卒中(nondisabling stroke)の発症頻度が高かった ことが大きな根幹として示されている。
保護デバイスの有無にかかわらず、ステント留置術は症候性頸動脈狭窄の治療において、動脈内膜切除術の代替療法として広く用いられてきた。血管内手技はそのような外科手術に関連した主要な合併症(脳神経 障害および血腫)を引き起こさないことが示されてきたにもかかわらず、無作為化試験では、ステント留置術の方が動脈内膜切除術よりも有効性が高い、または全般的な安全性レベルが高いということは明らかにされていなかった。
多施設無作為化対照試験であるICSS の主要な目的は、症候性頸動脈狭窄患者における動脈内膜切除術またはステント留置術施行後の3 年間の致死的脳卒中およびnondisabling stroke の発症頻度を評価することである。この目的に関するデータは現時点ではまだ利用できないが、最近発表された報告では、無作為化後120 日時点(intention-to-treat 解析)および治療後30 日時点(per-protocol 解析)における、これらの手技に関連した死亡率および罹病率が詳述されている。
全体で、症候性狭窄と最近診断された計1,713 例の患者が動脈内膜切除術群(858 例)またはステント留置術群(855 例)に無作為に割り付けられた。なお、これらの患者のほとんどは、事前に指定された手技を施行された(外科手術群の821 例、ステント留置術群の828 例)。
Intension-to-treat 解析の結果、脳卒中、死亡または手技に関連した心筋梗塞の発症頻度は、外科手術群では5.2%(44 イベント)、ステント留置術群では8.5%(72 イベント)であった。Per-protocol 解析でも同様の結果が示され、脳卒中、死亡または心筋梗塞の発症頻度は、動脈内膜切除術群では4%(33 イベント)であったのに対し、ステント留置術群では7.4 %(61 イベント)と高かった。これら両方の解析結果の内訳からは、イベント発症率における差異は各群で発症したnondisabling stroke のイベント数が大きな原因であることが明らかにされた。例えば、perprotocol解析の結果では、nondisabling stroke はステント留置術群では36 イベントであったのに対して、外科手術を施行した群では11 イベントであった。対照的に、この解析の結果、disabling stroke(後遺障害を伴う脳卒中)は各群とも14 イベントであった。
両方の解析結果からは、nondisabling stroke の発症頻度における差異に加えて、致死的脳卒中または心筋梗塞のイベント数に関しても、ステント留置術群の方が外科手術群よりも多いことが示された。Perprotocol解析の結果では、そのようなイベントはステント留置術群では11 イベントであったのに対して、外科手術の施行後では3 イベントのみであった。しかしながら、いずれの手技を施行した後のdisablingstroke または死亡の全般発症頻度に関しては、いずれの解析においても顕著な差異は認められなかった。
30 日間の追跡調査に係わった医師(無作為化のプロセスには関与しなかった)は、各患者が施行された手技をブラインドされていなかった。Nondisablingstroke のようなイベントに関して、潜在的な確認バイアスがあったのではないかという懸念点を解決するため、無作為にステント留置術群または外科手術群に割り付けられた患者のサブセットを対象として、MRI サブ試験を行った。この試験の主要評価項目は、治療後に撮像した拡散強調画像所見(治療1 ~ 3 日後に実施)における1 ヵ所以上の新規の虚血病変の存在とした。
MRI サブ試験の成績はThe Lancet Neurology に掲載され、その成績では、ステント留置術を施行した124 例中の50%の患者において、治療後のスキャンで1 ヵ所以上の新規の虚血病変が認められた。対照的に外科手術群では、治療後に1 ヵ所以上の虚血病変が認められた患者は107 例中17%のみであった。研究者らは、ステント留置術群で観察された脳卒中の発症リスクの増大は、おそらく確認バイアスが原因ではないと結論づけている。
ICSS の研究者らによると、今回の中間解析のデータは、過去に症候性頸動脈狭窄の治療法として動脈内膜切除術とステント留置術を比較した無作為化対照試験の成績と一致するものであり、外科手術が適した患 者の症候性頸動脈狭窄に対しては、現在でも動脈内膜切除術が好ましい治療法として存在すべきことを示唆している。にもかかわらず、研究者らは今、動脈内膜切除術と比べたステント留置術の長期的な有用性を判断するためには3 年間の追跡調査のデータが必要であるというストレスを抱えている。
doi:10.1038/nrneurol.2010.39
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