片頭痛の痛みを軽減するポータブルsTMS デバイス
Nature Reviews Neurology
2010年5月1日
Migraine Portable sTMS device relieves the pain of migraine
米国で実施された新たな研究の結果からは、ポータブルデバイスを介して伝達される単一パルス経頭蓋磁気刺激(sTMS)による治療が前兆を伴う片頭痛患者 の痛みを軽減し、自宅での薬剤服用に代わる治療法として期待できる可能性が示唆されている。Richard B. Lipton(米国Einstein 医科大学神経学教室教授、Montefiore 頭痛センター部長)は、「sTMS は皮質の拡延性抑制を途絶させる方法として候補となる非侵襲的な治療法であり、頭皮の表面にsTMS を当てることによって頭皮下の脳組織に電流を流し、片頭痛に効果を発揮する可能性がある」と述べている。
米国および西部ヨーロッパでは、女性の18%および男性の6%が前兆を伴う、または伴わない片頭痛を経験している。前兆は視覚障害、体性感覚徴候および運動効果を含む、片頭痛の発症に先行して現れる神経 学的症状であり、片頭痛患者の20 ~ 30%に発現する。現在、皮質の拡延性抑制が片頭痛前兆の基礎的発生メカニズムであり、この神経興奮・阻害波を途絶させることによって前兆や頭痛の発現を予防できることが広く知られている。
「sTMS は30 年前に開発された技術であり、従来この治療は医学的な監督ができる状況下で、大型の卓上型デバイスを用いて行われてきた。しかし現在、自宅での薬剤服用が一般的な方法であり、患者もこの方法が好ましいと思っている」とLipton は説明する。この点から、Lipton らは急性の片頭痛発作を自身で治療する方法として、簡単に磁気パルスを流すことができるポータブルsTMS デバイスの使用に関して検討した。
米国内の16 施設から、片頭痛および関連する前兆を有する成人患者(18 ~ 68 歳)計201 例を登録し、半数を携帯型sTMS デバイス群に、残りをsham デバイス(磁気パルスを発生しない点を除き、実際のデ バイスと全く同じもの)群に無作為に割り付けた。その結果、片頭痛発作の治療を行った164 例のうち、2時間後に痛みが消失したと回答した患者は、sTMS デバイス群では39%であったのに対し、sham 刺激群 では22%のみであった。さらに、この痛みの消失は、sTMS による初回治療の48 時間後まで持続したことが報告された。
Lipton は、本試験では前兆を伴う片頭痛の患者だけを対象としていたことを指摘しているが、「(今回の試験で得られた)最も重要な知見は、sTMS によって治療した患者では、sham デバイスによって治療した患者に比べて、痛みのない患者が有意に多かったことである」と付記している。Lipton は現在、予備実験の成績で示されているように、前兆を伴わない片頭痛の治療にsTMS を使用できるかどうかを確認し、またsTMS を使用する至適時期と至適パルス強度を明らかにしたいと考えている。
doi:10.1038/nrneurol.2010.42
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