虚血性脳卒中の発症リスクに影響を及ぼすミトコンドリアDNA
Nature Reviews Neurology
2010年6月1日
Stroke Mitochondrial DNA affects the risk of ischemic stroke
The Lancet Neurology に掲載された大規模研究の成績から、ミトコンドリアDNA のサブハプログループK を保有している人では、ヨーロッパ人のその他の主 なミトコンドリアDNA のハプログループを保有している人に比べて、脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の発症リスクが顕著に低いことが示された。本論文の筆頭著者であるPatrick Chinnery は、「この遺伝的作用は、(虚血性脳卒中の発症において)過去に特定されているその他の遺伝的危険因子の作用よりも強い」と述べている。
虚血性脳卒中が遺伝する確率は女性の方が男性よりも高く、このことはミトコンドリアDNA のような母方に受け継がれる遺伝的因子が虚血性脳卒中の発症リスクに影響を及ぼす可能性があることを示唆してい る。ミトコンドリアDNA は一塩基多型のパターンに基づき、ハプログループと呼ばれる種々のクラスに細分類される。いくつかの小規模でまだ再現性が検討されていない研究からは、虚血性脳卒中の異なるタイプ と種々のハプログループには関連性があることが報告されている。
ミトコンドリアDNA のタイプと虚血性脳卒中の発症リスクとの潜在的関連性を調べるため、Chinneryらは大規模なケースコントロール研究を実施し、2 つの独立した英国人コホート、すなわち虚血性脳卒中ま たはTIA の患者コホート(950 例)および急性冠症候群の患者コホート(340 例)、ならびに健康人および疾患コントロール群(2,939 例)におけるヨーロッパ人のミトコンドリアDNA の主要な10 種類のハプログループの分布状況を調べた。ハプログループのタイプは、高処理能ジェノタイピング法を用いて特定した。
サブハプログループK(ハプログループU のサブグループ)の保有率は、虚血性脳卒中またはTIA のすべての患者において、急性冠症候群の患者群、健康人コントロール群または健康人と疾患コントロールの 複合群よりも約50%低いことが示された。また、脳卒中またはTIA のそれぞれの患者コホートを別々に調べた結果でも、同様に保有率が低いことが示された。ハプログループK の保有率に差異が認められたこと とは対照的に、その他のハプログループの保有率に関しては、各群間に差異は認められなかった。この研究に携わった一人であるPeter Rothwell は、「サブハプログループK の作用強度、すなわちサブハプログループK を保有している人では相対リスクが50%低いことを例えて言うなら、この強度は積極的な降圧療法の臨床試験で得られる(虚血性脳卒中に対する)効果に匹敵するものだ」と説明している。
この研究チームによると、本研究の結果は、ミトコンドリアのメカニズムが虚血性脳卒中の病因に関与している可能性を示すエビデンスである。さらに研究者らは、虚血性脳卒中の発症リスクがある人を特定する ためにミトコンドリアDNA を利用することができることを提案している。
doi:10.1038/nrneurol.2010.58
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