リチウムALS 試験の中止後に持ち上がった安全性への疑念
Nature Reviews Neurology
2010年10月6日
Motor neuron disease Lithium ALS trial interrupted following safety doubts
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)患者において、低用量であっても炭酸リチウムの有害作用および重篤な有害作用がみられ、その試験 が中止された後、ALS 患者に対する炭酸リチウムの安全性に関して大きな疑念が持ち上がってきている。
その炭酸リチウムに関する試験は、本剤の神経保護作用は現在ALS の治療薬として唯一承認されているリルゾールよりも優れているという報告が発表された後、イタリアの研究グループによって実施された。し かしながら、投与中止例が高率に認められたことから、本試験は中止となった。患者に発現した有害作用は、投与量に特異的なものではなかった(治療量と治療量以下の用量との比較)。
本試験では、171 例のALS 患者が、異なる用量の炭酸リチウムを投与する群に無作為に割り付けられた(目標血中濃度は、「治療量」群では0.4 ~ 0.8 mEq/L、「治療量以下の用量」群では0.2 ~ 0.4 mEq/L)。なお、プラセボ群は設定されなかった。
治療に対するアドヒアランスのレベルは高かったにもかかわらず、中間解析の時点で約69%の患者が死亡、気管切開術、重度の障害、有害事象(皮膚系、消化管系および筋骨格系の障害を含む)または重篤な有 害事象(膀胱炎の再発、深在性静脈血栓症、致死的不整脈を含む心臓障害など)、あるいは有効性の欠如が原因で試験を中止した。
本試験の結果を考察する上で研究者らは、治療量以下の用量が偽性プラセボとして作用すると予想していたにもかかわらず、プラセボ群を設定していなかったことが本試験の限界であったと認めている。
研究者らは、ALS 治療のために患者が自ら服用する気になるような炭酸リチウムの至適用量を、既にある有効性のデータに基づいて決定せざるを得なかった。加えて、ALS 患者の生存率の改善や発症の遅延 など、過去の試験成績から期待されるような点が、炭酸リチウムが自分の障害をどう改善するのかというさらなる期待をALS 患者に抱かせる結果となった。
今回、試験が中止されたという結果は、疾患の悪化率が増大したことが示している通り、ALS 患者のリチウムに対する忍容性は精神病患者よりも不良であることを示唆するものであると著者らは結論づけてい る。過去に実施されたより小規模の試験では期待される結果が得られたが、今回の新たなデータに基づくと、炭酸リチウムはALS 患者に対する安全な治療法としては推奨されない。
doi:10.1038/nrneurol.2010.137
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