妊娠中のTNF阻害薬は安全か
Nature Reviews Rheumatology
2009年4月1日
Are TNF inhibitors safe in pregnancy
腫瘍壊死因子阻害薬は、速効性で、有効性が高く、大半の患者に対して忍容性が高いが、妊婦における安全性は明らかにされておらず、最新の研究がこの問題を検討している。
腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬による治療を受けている妊娠可能な年齢の患者数が増加しつつあり、妊娠を望む患者にとって、TNF阻害薬が妊娠中に安全であるかどうかは重大な問題である。妊婦登録および前向き対照試験から得られたこれまでの経験は、心強い内容であり、TNF阻害薬を服用中の女性が出産した児に先天奇形の増加は認められていない1,2。Carterらの論文はこの望ましい印象を覆すものであろうか。
Carterらは、5 ~10年間にわたり米国FDAに提出された先天異常の報告を検討し、妊娠中のある時点でインフリキシマブまたはエタネルセプトを投与した母親から産まれた、出生異常を有する患児41例を特定した。これらの患児のうち24例が一連の異常を有していたが、Carter らは、この異常を、いわゆるVACTERL連合の一部とみなした。VACTERL連合とは、脊椎、肛門、心臓、気管、食道、腎の奇形または異常からなる、出生異常の選択的結合である。生児出生10,000例あたり0.3 ~ 2.1例の割合で自然発生し、その複数の奇形は、妊娠初期に生じる。このVACTERL連合に心臓欠陥を含めることには異論がある。VACTERL連合の診断基準は厳密なもので、3つ以上の先天異常の合併が必要とされる。特定の染色体異常の除外を必要とみなす研究者もいる。Carterらの解析3では、1例を除いて4、3つ以上の先天異常を呈する患児はいなかった。特定の染色体異常の除外は行われなかった。
心臓欠陥、尿道下裂、四肢異常など、Carterらの論文で報告された出生時欠損のいくつかは、一般集団にもよくみられる。Carterらの解析で、染色体異常が先天性心疾患と高度に関連していた21トリソミーの1例に示されているように、小児における複数の種類の奇形の存在が、必ずしもVACTERL連合であることを示すものではない。Carterらは報告された心臓欠陥および腎生殖系の異常をすべてVACTERL連合の一部として含めている。しかし、VACTERL連合に特異的な異常は、肛門閉鎖、食道閉鎖、椎骨欠損である。Carterらの論文でこれらの異常が発生したのは3例のみであった。Carterらが不完全なVACTERL連合を有していると主張した、それ以外の小児は、正常集団の3 ~5%にみ られる主要な出生異常に関連した異常を有していた。
妊娠中にTNF阻害薬に曝露された女性における出異常は、Carterら以外の著者も報告している。VACTERL連合に加えて、ファロー四徴、腸回転異常、四肢欠損などが報告されている。妊娠初期にアダリムマブまたはエタネルセプトによる治療を受け、反復自然流産の既往のある女性患者17例を対象にした研究では、ダウン症候群の1例が報告されている。Organization of Teratology Information Specialists(OTIS)の2件の前向き対照試験では、1件はエタネルセプトとインフリキシマブ8、もう1件はアダリム マブ9を対象に検討し、18トリソミー1例、停留精巣1例、小頭症1例が報告された。
Carterら3はTNF 阻害薬に曝露された妊娠におけるVACTERL連合発生の機序を考察している。Carterらは、TNFの多機能作用(胚子に対して保護的に働く作用もあれば、有害な作用もある)を指摘し、保護的作用の方に焦点を当てた。Carterらは、TNFの阻害が先天奇形の重要な機序であることを示唆した。しかし、この考え方は、妊娠そのものが、エタネルセプトの類似体である可溶性TNF受容体の発現亢進によってTNF を阻害するという事実に合わない。Carterらは、サリドマイドによる先天奇形の原因をTNF阻害とす る見解も示しているが、これは納得し難い。この考え方では、強力なTNF阻害薬である糖質コルチコイドを原因のリストに加えることになる。ある薬剤をサリドマイドに近いものと位置づけることは、その薬剤を強力な催奇形性を有するものとみなすことであり、患者にも医師にも重大な懸念を引き起こす。発表されて いるデータが、TNF阻害薬に関するこのような結論を裏付けていないことは確かである。
Carterら3の試験のデザインでは、妊娠中に服用したTNF阻害薬が出生異常のリスクを増大させるかどうかを判定することはできない。主な限界は、TNF阻害薬に曝露された妊婦の総数が分からないため、(たとえリスクがあるとしても)リスクの程度に関して意味のある評価ができないことである。2件のOTIS試験は、疾患を有する非曝露群と健常対照群を設定しており、出生異常の発生率が上昇しないことを示した。疾患を有する非曝露群を対象とすること、また望むらくは健常対照群と併せて検討することが、催奇形 性の真のリスクを評価できる唯一の方法である。
TNF阻害薬を投与中、または抗TNF療法を計画している妊娠可能な年齢の患者に、臨床医はどのように対応すべきであろうか。FDAは、妊娠中のTNF阻害薬使用を「カテゴリーB」に分類しており、これは動物実験で胎児にリスクがないことが示されたことを意味している。しかし、現在までの報告では、妊娠前または妊娠第1三半期のTNF阻害薬使用を主に問題としており、妊娠第2または第3三半期におけるTNF阻害薬使用の経験が少ないことから、妊娠中の患者に対する安全性を主張するのは時期尚早である。モノクローナル抗体であるアダリムマブおよびインフリキシマブは、妊娠後期には胎盤を多量に通過し、胎児が母体と同等の血中濃度に曝露されることが知られている。一方、可溶性TNF受容体であるエタネルセプトは、通過量がはるかに少ないと考えられている。
一般に、TNF阻害薬は妊娠が確認されたら直ちに投与を中止すべきである。しかし、抗TNF療法が全妊娠期間にわたり必要と考えられる場合には、患者からインフォームドコンセントを得るべきであろう。
doi:10.1038/nrrheum.2009.47
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