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疼痛管理:オピオイドガイドライン:リウマチ専門医にとって有用か

Nature Reviews Rheumatology

2009年5月1日

Pain Management Opioid guidelines helpful for the rheumatologist?

非癌性慢性疼痛の治療にオピオイドが用いられることが多くなっているが、これについては議論が続いている。新しく策定された臨床勧告は、この問題について臨床医に指針を示そうとしている。

2,000 年以上も前から鎮痛作用をもつことが知られていた薬剤の使用に、なぜ今さら新しいガイドラインが必要なのか。オピオイドは癌性疼痛および終末期の緩和ケアに用いる重要な治療法として確固たる地位を確立している。一方、非癌性慢性疼痛に対するオピオイド使用も、最近20年の間に着実に伸びてきている。非癌性慢性疼痛をきたした患者に対するオピオイド処方が増加しており、その中で筋骨格系の疾病が大きな割合を占めている。そのため、患者のケアには専門家の助言や指導が有用であると考えられる1。この点で、American Pain SocietyおよびAmerican Academy of Pain Medicineから発表された今回の勧告は歓迎されている。

疼痛緩和に対するオピオイド使用を記載した歴史上最初の記録は、紀元前3世紀のテオフラストスの書物にみることができる。しかし、5,000年以上前のシュメール人の時代から、アヘンに催眠および鎮静効果があることは知られていた。このように、オピオイドの鎮痛効果は長い年月をかけて確立されており、特に急性疼痛に対する治療効果は魅力的であるが、2つの重大な理由から、オピオイドは疼痛管理に普遍的に利用できるものではない。第1に、オピオイドの副作用の頻度はきわめて高く、好ましくなく、時として危険であるため、その使用が制限される。第2に、オピオイドは精神作用を及ぼすため誤用および乱用の可能性があり、これが医師と患者の双方にとって重大な懸念となって、その使用がためらわれている。

American Pain SocietyおよびAmerican Academy of Pain Medicineは、Roger Chouを長とする専門家グループに、非癌性疼痛に対する長期オピオイド使用についてエビデンスに基づくガイドラインの作成を委託した。従来のガイドラインは主に専門家のコンセンサスに基づいて作成されていたが、新しい勧告は一連のメタ解析および個別の試験の評価により作成されるので、エビデンスに基づく最新情報が提供される。しかし専門家が再検討してみると、驚くべきことに、オピオイド使用に関する多くの重要な問題をめぐる判断が、依然として乏しいエビデンスに基づき行われていたことが明らかになった。しかし、こうした制限要因のなかでも、今回発表されたガイドラインは、綿密に検討され、包括的に情報を示し、巧みにまとめられている。現時点では最良の指針であり、オピオイドを処方する、または処方する意思のある臨床医に有用な情報を提供するものと思われる。

このガイドラインは、慎重かつ保守的な傾向があり、この姿勢はおそらく、長期オピオイド使用に関して明確なエビデンスがなく、不確実なことが多いことによるものであろう。特に、長期健康リスク、耐性の発現、乱用のリスク、機能的改善の持続を伴うプラス作用の維持において一般に適用できるとは限らない。公式のインフォームドコンセントの取得、ランダムな尿検査実施による乱用の監視、長期オピオイド療法に不応性の疼痛を治療するために高用量オピオイドを追加投与することなどの対応は、若干の追加的疼痛緩和だけが必要なリウマチ性疾患患者に対しては、他の重度の慢性疼痛を抱える患者と同じようには当てはまらないかもしれない。さらに、乱用や誤用の可能性が高い薬剤の処方にかかわる法的な問題について専門家委員会が示した助言は、米国で診療を行う臨床医にとっては適切なものであるが、米国以外では、慎重すぎて過度な規制ととられるかもしれない。たとえば、変形性膝関節症の高齢患者が、快適にゴルフを楽しむためにオピオイド療法のインフォームドコンセントにサインしなければならないという状態は、本当に理にかなっていると言えるのか。推奨されているインフォームドコンセントの様式には、オピオイド使用に関連する多くの有害事象、認知機能や運転能力の変化に関連するリスク、依存のリスク、男性では内分泌機能異常について記載されている。もちろん、どのような薬物療法でも、特にリウマチ専門医が通常処方するような薬物では、考えられ得る有害事象や、使用上の注意に関する同様の長いリストが付き物である。しかし、なぜオピオイドがこれほど違う取扱いを必要とするのだろうか。多くの医師は、このインォームドコンセントの要件を患者の信託違反とみなすだろう。患者と医師の間の信頼関係を損なう可能性があれば、医師はオピオイドを処方することをためらうようになるだろう。したがって、インフォームドコンセント、ランダムスクリーニング、運転に関する注意喚起などは考慮すべき問題ではあるが、これらの問題に関するガイドラインは、規則として定めるのではなく、個々の患者や臨床状況に合わせて考慮すべきと考えられる。

以下に要約する一連のキーポイントは、オピオイドを処方しようと考えている専門医にとって重要である。第一に、オピオイドのrisk-benefi t balanceは、依然として臨床使用する際の唯一かつ最大の規制要因である。オピオイドを処方する医師は、オピオイドのよく知られた負の作用に注意を怠らないことが肝要である。それは、悪心、便秘、認知機能障害などの不快症状から、睡眠障害、うつ病の悪化、性腺機能低下など、より認識しづらい影響まで多岐にわたる。また、オピオイドを処方する医師は、乱用の指標Box 1)に精通し、その懸念がある場合は、疼痛治療の専門家に助言を求めるべきである。さらに、オピオイド療法の効果は、疼痛改善についての主観的評価だけでなく、日常機能の改善に関する客観的評価も用いて判断する必要がある。こうした機能改善は、家事や余暇活動の単なる増加から職場復帰にまで及ぶ場合がある。

本稿の2番目に重要なメッセージは、オピオイド処方は魔法の解決策ではないということである。疼痛の管理は単一薬剤の処方のみに頼るべきではなく、心理療法による介入や補助鎮痛薬などの追加的な治療選択肢も適宜検討する必要がある。患者と医師の双方が現実的に成果を得るためには、多角的な治療法を用いることが最も効果的であるというエビデンスが蓄積されつつある。オピオイドを含め、どのような治療法であれ、単独で疼痛を完全に取り除くことはできない。オピオイド療法であれば、疼痛ビジュアルアナログスケール上10cmで、疼痛レベルが2 ~ 3cm低下すれば、現実的に治療成果があったと言える。

長期オピオイド使用の全体的安全性はまだ明らかになっていない。この領域のエビデンスはごく少ないため、最良の臨床アプローチは、オピオイドに詳しい医師が患者を慎重に経過観察することである。オピオイド療法開始後は、患者が最適な長期治療レジメンで安定するまで、健康状態および薬物使用について詳細な経過観察を行うことが必要である。この治療レジメンは経時的に調節する必要があり、何年間も変更されずにすむ可能性は低いということも念頭におくべきである。治療レジメンの調節は、患者の共存疾患、臨床状態の変化(改善でも増悪でも)、他の薬物療法の導入などの一連の要因に依存する。さらに、理想的なケアには、患者と看護師の間の連絡が必須である。看護師は多忙な医師を補佐して、患者に継続した支援、教育、安心を与えることができる。このほか、長期オピオイド療法中の患者の安全に関する重要な考慮事項としては、運転および業務中の安全である。患者がオピオイドの安定用量を服用している場合、運転は必ずしも禁忌ではないが、医師は、他の多くのカテゴリーの薬物を用いた治療に関してと同様、認知機能障害が安全性のリスクであることを患者に警告する責任がある。

オピオイドには多数の剤形があるが、いずれの製剤が優れているかというエビデンスはない。このため、リウマチ専門医は、患者に最も適したオピオイド薬で、自分が熟知、経験していて最も不安なく投与できる薬を使用すべきである。長期オピオイド使用には徐放性製剤を選択するほうがよいと考えられている。これは、徐放性オピオイドは一日中良好な疼痛コントロールを提供し、非除放性製剤と比較して乱用傾向を促進する可能性が低いためである。しかし、この考えは主として事例証拠に基づくものであり、文献中の信頼性の高いデータによ る裏づけはない。

リウマチ専門医は、時に、オピオイド療法中の患者の管理が難しいと感じるであろう。そのように感じる状況はいくつかあるが、次第に高用量が必要になりそうな場合がその一例である。また、患者が現在投与中のオピオイドにまったく反応しなくなり、別のオピオイド薬、ことによるとメタドンへの変更が適用されることもあるだろう。オピオイド関連異常行動の徴候がみられることもある。そうした困難な状況では、疼痛管理の専門医に相談することを強く推奨する。しかし、大多数のリウマチ性疾患患者では、治療中に乱用、誤用、薬剤の変更などが頻繁に起こるとは思えない。リウマチ性疾患患者は、典型的な「オピオイド問題患者」より高齢であり、おそらくは必要とされるオピオイド用量は低く、彼らは薬剤追加、特に疼痛緩和のための追加については慎重である。

この新しいガイドラインにより、リウマチ専門医がオピオイド処方に積極的になるか、逆に消極的になるかについては、経過を見守る必要がある。非癌性慢性疼痛の治療は、痛みをよく理解し、よりよい管理を行い、そしてオピオイドを含むさまざまな療法を用いるように推移しつつある。しかし、リウマチ専門医を受診する患者は年齢が高く、薬剤関連副作用を認容しがたく、過多な薬剤の使用を好まない傾向があることに留意する必要がある。オピオイド療法を開始し、うまく継続させるためには、患者と医師の間の相互理解と合意が必要であり、さらに、全体として、オピオイド療法の有効性がマイナス作用に優っていなければならない。

doi:10.1038/nrrheum.2009.63

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