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治療:リウマチ治療ガイドライン:どこへ向かうのか

Nature Reviews Rheumatology

2009年8月1日

Therapy Guidelines in rheumatology quo vadis?

関節リウマチ患者に対するメトトレキサートの次のDMARDの最適な選択は難しい問題である。臨床医の治療指針となることを目的としたエビデンスに基づくガイドラインは、その実施にあたっていくつかの重要な問題を慎重に考慮する必要がある。

Fautrelら1は最近、メトトレキサート療法にもかかわらず活動性である関節リウマチ(RA)患者の治療選択に用いることのできる治療アルゴリズムを発表した。著者らは、疾 患活動性および重症度に加えて治療選択に影響を及ぼしうる患者特性を重要な指標として組み込み、フランスの経験豊富なリウマチ専門医の多彩なグループによる投票を行ってシナリオを作成した。このプロセスにより、著者らは「日常診療において、リウマチ専門医がメトトレキサートの次のDMARDを選択する際に指針となると思われる」アルゴリズムを作成した。メトトレキサートの次に選択するDMARDの問題については、特定の治療方法の裏付けとなる一方、臨床医が通常遭遇する重要な緊急事態も数多く網羅しているような、優れたエビデンスが不足していることを念頭に置く必要がある。Fautrelら1が取り組んだ厳密な方法論に基づく作業により、医学において悪評の高い「治療ガイドライン」という領域に存在する一連の重要な検討事項が明らかになった。

リウマチ治療においては、主に新規免疫調節薬の登場以来、治療ガイドラインが大きな注目を浴びるようになってきた。生物製剤、なかでも重要な炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)の阻害薬が導入されたことにより、リウマチ治療は革新的な変化を遂げた。TNF阻害薬は、RAの徴候や症状を大幅に改善し、機能状態を至適化し、さらに関節破壊を予防する作用を有しており、これによってRAをはじめとするリウマチ性疾患患者における治療目標のレベルが上がった。生物製剤がより広範に治療戦略に組み込まれるようになるにつれて、その至適使用に影響を及ぼす可能性のある多くの因子が、無作為化臨床試験によって検討されていないことが明らかになった。このような状況を受けて、ガイドラインに対する専門医の関心が高まってきたのである。

Fautrelら1により作成されたガイドラインには、治療選択に影響する多くの関連特性が組み込まれてはいるが、いくつかの点が抜け落ちていることに気づかされる。一例として、安全性は最も重要な問題であり、医師および患者による治療決定にきわめて大きな影響を及ぼす。それにもかかわらず、安全性の問題は、極度に安全性が問題になる場合を除いてガイドラインに十分組み込まれていない。この理由は、重症度が異なる無数の交絡因子により多数の変数が必要となり、そうした変数をアルゴリズムに組み込もうとすると実用的でなくなるためである。この問題は、ガイドライン作成には障害をもたらすものであるが、ケースバイケースで複雑な因子を評価し、それを治療法の決定に組み込むにあたって、経験豊富な臨床医の役割が重要であることを示すものである。

また、費用(治療コスト)は、治療選択に影響を及ぼすもうひとつの重要な因子である。Fautrelら1は、分析にあたって費用を除外した。これは、フランスでは、治療選択の際に個々の患者が負担する費用は考慮しないためである。しかし、医薬品の経済性の問題は世界的に認識されるようになっており、治療選択に影響を及ぼしている。米国では、薬剤選択の主な理由として、個々の患者が負担する費用が挙げられる。患者が加入している保険の種類によって個人負担額が異なるためである。公的保険による医療を行っている国家においても、新規生物製剤の費用が前世代の抗リウマチ薬より大幅に高いことが問題となり、医師、ひいては患者が生物製剤の使用をためらう主な要因となっている。費用の問題は、さまざまな国で、生物製剤の使用に関する種々のガイドラインや制限事項に反映されている。さらに、費用は政治的な問題でもある。国家の医療に対する予算総額にかかわらず、医療介入は少ない資源を奪い合っている状態である。だがリウマチ専門医は、新たな療法により達成された目覚ましい臨床試験の結果により、抗リウマチ療法の有用性について十分な根拠を示すことができるようになった。

生物学的療法を最適化し、費用を削減し、最高の安全性を確保する1つの方法は、個々の患者の治療反応を事前に予測することであろう。だが現在では、至適療法を行った場合でも、寛解に至る患者もいれば、まったく奏効せず、さらなる治療の妨げとなる毒性作用に苦しむ患者もいる。ある患者がこれら両極端の反応のいずれを示すかは治療をしてみなければわからないというのは、悩みの種である。これまで、RAなどのリウマチ性疾患研究の多くが数多くの疾患関連指標や患者特性を評価しているが、有用な治療反応予測因子は依然として明らかでない。急性期反応物質など、反応の判定に用いる基準に不可欠な、重複した特性ですら、反応予測において均一に情報を与えるものではないことが示されている。リウマチ性疾患は免疫反応の障害であるため、一部のバイオマーカーパネルが有用であることが期待されている。しかし、リウマチ性疾患は遺伝的不均一性の大きい複合症候群であるため、バイオマーカーやそれ以外の推定予測因子が安易な解決策とならなくても驚くには値しない。反応予測因子は有用であると考えられることから、今後も探索は継続され、実用的な予測因子が見つかれば、治療ガイドラインの中心的な部分になることは言うまでもない。

ガイドラインに関する議論は常に哲学的問題を提起する。つまり、ガイドラインは本来、それが治療の標準化を目的とするものであっても、医術(art of medicine)とは 相反するものである。厳密に作成された治療ガイドラインは多くの場合有効であるが、重要な少数患者に対する至適治療が反映されていない可能性もある。リウマチ治療 は、これ以外の専門分野と比べて特殊性の高い医療であると考えられ、個々の患者の至適治療には医師の専門知識を必要とすることが多い。さらに、ガイドラインは、それが根拠とするデータより優れたものにはならない。そのデータが急に変更されることもある。例として、集中治療室の患者に対する厳格な血糖値管理に関する議論におけるように、エビデンスの根拠が変わることなどが挙げられる。もっとも、ガイドラインについては、それほど早く変更されることはないであろう。費用を削減させるガイドラインのほうが、より費用の高い治療選択肢を支持するガイドラインよりも先に採用されるらしいという逸話がある。

次世代の医師に対する影響はどうだろうか。医学生の中で知られている格言で、「メディカル・スクールで学んだことの半分は誤りであり、医師の職業人生における使命は、その誤った半分の知識がどれかを知ることにある」といったものがある。医療がすべてガイドラインに基づくようになれば、誤った半分の知識がどれかを知ることは不可能になるであろう。医療が順調に発展している時期には、ガイドラインは拡張される。電子カルテの普及と医療の質的評価6が合体することで、規制当局は、ガイドライン遵守を厳格に管理することができるようになるであろう。だがFautrelら1が認識しているように、ガイドラインは濫用されることもある。規制当局がガイドラインを利用して、強制的診療基準を強要する可能性があるためである。今後ガイドラインの使用が増加するのは避けがたいが、臨床医がその実施に関与することにより、患者の転帰を最良にすることが肝要である。

doi:10.1038/nrrheum.2009.146

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