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並存疾患:関節リウマチでは癌スクリーニングをルーチンに行うべきか?

Nature Reviews Rheumatology

2009年9月1日

Comorbidities Should cancer screening be routine in rheumatoid arthritis?

RA患者は悪性リンパ腫の発症リスクが高く、白血病や骨髄腫などの他の造血器悪性腫瘍の発症リスクも高い可能性がある。このリスクは強直性脊椎炎(AS)などの他のリウマチ性疾患では高くないと考えられているが、メトトレキサート投与を受けた乾癬性関節炎(PsA)患者では高い可能性がある。腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニストの単独投与またはメトトレキサートとの併用が、すでに高くなっているリンパ腫のリスクに影響を与えることが、臨床上懸念の材料となっている。

RAにおいて、発癌リスクの上昇は、重篤な感染症と同様に治療開始後最初の数ヵ月間に生じ、その後は投与前の程度まで低下することが、TNF阻害薬療法の無作為化対照試験および登録研究の結果、示唆された3‒5。癌や感染症の発症リスクは、使われたTNF阻害薬によってある程度異なることがある。しかし、RA患者を含むリウマチ性疾患患者に対し、リンパ腫やその他の悪性疾患をスクリーニングするための実地臨床戦略は、まだ開発されていない。

Nanniniら7は、徹底的な癌スクリーニングによって、TNF阻害薬投与を受けている患者のリンパ腫発症率を低下させることができるかどうかについて調査した。彼らは、TNF 阻害薬投与を受けているRA、PsA、AS患者の無作為化対照試験のシステマティックレビューを行い、また、彼らの病院の患者363例と、病歴から選び出した対照群73例を比較した後ろ向きレビューを行った7。彼らの病院の患者に対しては「徹底的な癌スクリーニング」を実施し、無作為化対照試験の患者については、癌の病歴の検討を行った。悪性腫瘍の既往のある患者は試験から除外したが、残りの患者に対してさらに特異的なスクリーニングは行わなかった。臨床試験において、悪性疾患を発症したのは、実薬群に無作為に割り付けられた患者8,015例のうち60例(0.75%)であり、これに対してプラセボ群では3,991例中21例(0.52%)であった。後ろ向きの症例シリーズにおいては、試験群の 患者1例(0.27%)および対照群の患者3例(4.1%)が、追跡調査期間中に癌を発症した。Nanniniらの観察によれば、26%の癌が治療開始後最初の12週間以内に発症した。彼らは、より徹底的なスクリーニングによってこれらの患者の癌発症率が低下する可能性があると結論づけた7。

RA患者では、リンパ腫の発症リスクは、RA自体の根本的な免疫学的病態および治療強度によって異なってくると考えられる。さらに、治療強度は主に疾患活動性のレベルによって決定され、RAではこれがリンパ腫リスクの増加とも関連している。事実、背景の異なる別の研究では、リンパ腫発症リスクは治療よりも疾患活動性と強い関連性を示すことが示唆されている。一例として、エプスタイン・バーウイルスに感染した患者においてリンパ腫発症リスクとメトトレキサート投与の関連性が十分明らかにされていることが あげられる。

疾患活動性がリンパ腫発症に関連しているならば、強力な抗リウマチ療法を用いて疾患活動性を低下させれば、リスクが低下するはずである。このような治療には、TNF阻 害薬や他のDMARDだけでなく、コルチコステロイドも含まれる。

この理論を支持するように、Hellgrenら10は、コルチコステロイドがリンパ腫発症リスクの低下と関連している可能性を示唆するデータを示した。彼らは地域住民を対象と したコホートのRA患者74,651例から、リンパ腫患者378例とマッチした対照患者378例を選び出した。そして、経口ステロイド投与が2年未満だとリンパ腫リスクが上昇しな いが(オッズ比[OR]0.87、95%CI 0.51~1.5)2年を超える場合は、対照者と比較してリンパ腫リスクが低下を示した(OR0.43、95%CI 0.26~0.72)。経口ステロイド療法開始 時のRA罹病期間は、リンパ腫リスクには影響がなかった。Nanniniら7の研究およびHellgrenら10の研究は、臨床上のリスク評価と治療法決定に対してどのような情報を提 供するであろうか。Nanniniら7の研究の限界は、もともと発癌リスクが異なる、RA、PsA、ASの患者をまとめて検討した上に異なるTNF阻害薬を使用していたことである。ま た、彼らの症例の対照としたのが病歴から選び出した患者であったため、癌発症率が低く、癌スクリーニング戦略の効果を十分に評価することは困難であった。

Hellgrenら10は、疾患のコントロールを改善させることで、リンパ腫を含む合併症発症リスクを低下させることができることを示唆した。コルチコステロイド投与により、強 力な治療の必要性が減少し、悪性腫瘍リスクが低下するかどうかは明らかではない。しかし、彼らの、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のリスク低下に関する知見(粗オッズ比 0.59、95%CI 0.37~0.94)は、これが事実である可能性を示唆している。彼らは、関節内ステロイド投与はリンパ腫リスクを低下させたが、「再燃時における迅速な治療(swift flare therapy)として使われたときのみであった」という不思議な結論を下したが、これは、多くの観察研究を悩ませている残余交絡の問題を提起する。このような問題がでてくることは、コルチコステロイド投与がリンパ腫リスクを低下させたのは、薬剤の効果というよりもこのコホートに特異的な所見であることを示している。

これらの研究の方法と注目点は異なるが、これらの結果から、臨床上有用ないくつかの結論を引き出すことができる。第一に、できるだけ軽い治療レジメンを用いて最適な 疾患コントロールを行い、できるだけ低い疾患活動性を達成することが絶対に必要である。第二に、メトトレキサートやTNF阻害薬などの免疫調節療法が考慮されている患 者については、薬剤投与前または投与開始時に、患者の年齢、性別、合併症に適した、ルーチンの癌スクリーニング(およびワクチン接種)を行うべきである。最後に、癌 は投与開始後最初の数ヵ月間に発症する傾向があるため、治療初期には患者を高頻度で来院させて、悪性腫瘍の徴候と症状について詳細に質問して検査を行うべきである。 治療開始時および用いている個別の薬物療法に応じて適宜、ルーチンの全血球計算値および鑑別のための検査を行うべきである。単クローン性に関するT細胞およびB細胞 マーカーのルーチン検査は不要である。これらの点を考慮 すれば、炎症性リウマチ性疾患患者の予後はかなり改善さ れるであろう。

doi:10.1038/nrrheum.2009.173

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