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治療:リツキシマブとPMLリスク―インフォームド・デシジョンが必要

Nature Reviews Rheumatology

2009年10月1日

Therapy Rituximab and PML risk—informed decisions needed!

リツキシマブで治療した多数の患者において、まれではあるがしばしば致死的となるウイルス性疾患が報告されているが、この合併症リスクが実際の処方にどのような影響を及ぼすのかという疑問から、いくつかの重要な因子を検討する必要が生じている。

進行性多巣性白質脳症(PML)はJCウイルスが引き起こす日和見感染症である。HIV、癌、臓器移植患者の治療にあたる医師は、この破滅的な疾患を熟知している。しかし、そ れ以外の多くの医師、特に、多発性硬化症およびクローン病に対するnatalizumab、乾癬に対するefalizumab、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患に対するリツキシマブなどの生物製剤を処方する医師にとって、PMLは現在やっと知られるようになった疾患である。PMLは真にまれな疾患であるが、新薬に関連して発症した場合、製薬会社、医師、患者にとって深刻な問題となる可能性があり、その薬剤の一時的または永久的な市場からの撤退を余儀なくされる、あるいはその継続使用のために厳格なリスク軽減対策の導入が必要になることも考えられる。さらにPMLは、まれであることに加えて、複雑かつ十分に解明されていない疾患でもあり、有効な治療法がない。これらの要因はいずれも 患者の不安と医師の懸念につながり、PML発現のリスクが報告されているリツキシマブその他の薬剤による治療を検討する際に、医師と患者の間で情報を十分共有したうえで 共同して意思決定を行うプロセスに悪影響を及ぼすと考えられる。

2009年5月、Carsonら1は、リツキシマブ療法後に発症したPML患者57例の分析結果を発表した。これらの症例は、一連の癌センターや大学治療センター、FDA報告書、製造 業者のデータベース、科学出版物など、複数のソースから収集された。その多くは未発表であり、この57例はおそらくPMLの発生率に関する過少評価のレベルをおおまかに表 していることが示唆される。症例の90%が死亡した。57例のうち、2例が全身性エリテマトーデス(SLE)、1例がRA、1例が免疫性血小板減少症を発症していた。FDA、欧州医薬品審査庁、WHO、製造業者のいずれも、リウマチ性疾患患者におけるリツキシマブ投与後のPML発現について警告および注意を発表している。それにもかかわらず、治療計画 において他の免疫抑制薬と比べたリツキシマブによる実際のリスクレベルに関して、上記の少数の症例の意義が十分考慮されているとは言い難い。Carsonら1による報告の発表 後、その著者の1人が、リツキシマブは「致死的疾患を患っていない患者に安易に投与すべきではない」ことを示唆したと、Wall Street Journal の記事に引用された。われわれは、このような見解は時期尚早であると考えるが、実際には非悪性疾患においてリツキシマブのリスクとベネフィットのバランスをとることについて議論することには価値がある。本稿では、リウマチ性疾患に対するリツキシマブ使用について患者と情報を十分共有したうえで共同して意思決定を行うにあたって、PMLリスクの視点から考慮すべきポイントをいくつか提案する。

第1に、PMLは深刻な合併症であり、その発現リスクはきわめて低いながらゼロではない。このリスクについては患者と話し合うべきである。

第2に、PMLはあらゆる免疫抑制療法に関連するリスクであり、その発症を予測する効果的な方法はない。生物製剤が登場する以前にも、RA患者におけるPMLはよく報告されており、さらにSLE患者でははるかに頻度が高い。SLEにおけるPML発症者の多くは免疫抑制剤の使用量がきわめて少ない。このため、SLEはPMLの特異的な素因である可能性がある。

第3に、RAは重篤な疾患であり、すでに治療に使用されている非生物学的および生物学的DMARDなどの薬剤はすべて、まれで重篤な、時に致死的ともなる毒性作用に関連しており、その定量化も予測も困難である。考えられる合併症としては、重篤な感染症、日和見感染症、脱髄疾患、癌などが挙げられる。このように、まれで致死的な有害事象の脅威は広く存在するものであり、ある種の薬剤や薬剤分類に限られたものではない。

第4に、PMLは、リツキシマブ曝露歴のないRA患者やSLE患者にもみられるため3、そのリスクにリツキシマブがどれほど関与しているかは明らかでない。既知の症例報告や薬剤使用の情報によれば、そのリスクはきわめて低く、リツキシマブ療法を受けているRA患者100,000例あたり2.5例と考えられる。PMLのリスクは、リツキシマブにより期待されるベネフィット、つまり疾患活動性、QOL、X線画像上の進行9,10などに対する効果や、リツキシマブ以外の治療選択肢により期待されるベネフィットと比較して勘案されなければならない。SLEの場合、PMLリスクは大幅に高く、おそらく8,000例に1~2例となる。したがって、臨床試験は別として、どうしても使用しなければならない状況でない限り、SLEに対する治療法としてリツキシマブ(適応外使用)を考慮すべきではない。

最後に、このほかにも満たされていない必要事項がいくつかあることも考慮しなければならない。PMLという複雑な疾患について、病態生理、リスク因子、発生率、治療法に関してより多くのデータが緊急に必要であることは明らかである。医師は、PMLのリスクについて患者に十分なカウンセリングができるような知識を身につけるほか、初期の徴候や症状を認識し、適切な診断検査を指示する技術を学ぶ必要がある。さらに、規制当局は症例探索のため監視を強化しなければならない。また、Tysabri® Outreach: nifi ed Commitment to Health(TOUCH)プログラム1に準じた方法でリツキシマブのリスク軽減策を支持することを真剣に検討すべきである。このプログラムは、PMLが報告されたことを受けてnatalizumabの流通を制限するために実施されたものである。リツキシマブに関してもこのようなプログラムがあれば、医師や患者に情報が正確に伝わるとともに、症例探索の取り組みが強化されると考えられる(Box 1)。現在のところ、PMLに対する恐怖感のほうが疾患そのものより急速に広がっているようである。一呼吸おいて冷静にデータを検討し、それを患者と共有して、さらにリスクを低下させる方法を検討すべきである。

doi:10.1038/nrrheum.2009.193

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