変形性関節症:OAの非薬物療法のさらなるエビデンス
Nature Reviews Rheumatology
2009年11月1日
Osteoarthritis More evidence for non-pharmacological OA therapy
手の変形性関節症に対する非薬物療法について検討した無作為対照試験はほとんどない。現在、1件の無作為対照試験で、母指手根中手関節の変形性関節症(base-of-thumb osteoarthritis)の治療にネオプレーン製スプリントが有効だという可能性が示唆されている。しかし、まだ解決されていない疑問がいくつかある。
リウマチ性疾患の非薬物療法は、行われることは多いものの有効性に関するエビデンスが少ない。このデータ不足が、リウマチ性疾患患者の管理に影響を与え、コンプライアンスを低下させている可能性がある。Rannouら2が今回、母指手根中手関節の変形性関節症(base-of-thumb osteoarthritis : BTOA)に伴う疼痛と機能障害の治療に対する、スプリント装着の短期的および中期的影響を評価した1年間の無作為試験の結果を報告した。この研究の結果から、非薬物療法の有効性が明確に示されたが、それが示されたのは1年後のみであった。
著者らは、フランスの施設2ヵ所でBTOA患者112例を募集し、カスタムメイドのネオプレーン製スプリントを夜間に装着する群と通常のケア群に無作為に割り付けた。治療1ヵ月後に患者が報告した疼痛スコアの平均変化は両群で同等であり、いずれの群でも顕著な疼痛改善は認められなかった。しかし1年後、スプリント装着群では、対照群と比較して疼痛スコアが有意に大きく低下した(100mmビジュアルアナログスケール上の平均変化-22.2対-7.9、群間差-14.3、95%CI-23.4~-5.2)。さらに、スプリント装着群では対照群に比べて、Cochin Hand Functional Scaleで評価した機能障害も有意に改善された。しかし、ネオプレーン製スプリントの使用は、X線検査に基づく変形性関節症(OA)の進行には影響がなく、第1指間閉鎖(closure of the fi rstweb)(BTOAに伴ってよくみられる屈曲変形)を予防または改善することはなかった。
これらの結果は、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインには反するように思われる。EULARのガイドラインでは、BTOA患者の屈曲変形を予防または是正するためにスプリントの使用が推奨されている。しかし、試験が短期間であり(1年)、放射線学的に進行した疾患の患者が多かったことから、この結果に関して明確な結論を出すことはできない。
Rannouら2は、OAに対する非薬物療法を無作為化対照試験で検討できることを明白に示した。しかし、著者らが認めている通り、スプリントに対しては信頼できるプラセボがないため、患者も医療提供者も治療の割り付けについて盲検化できなかった。このため、結果としてスプリント群の方が良好になるバイアスがあった可能性がある。
とはいうものの、臨床診療におけるこれらの結果の意義は明確である。今回のデータに基づくと、臨床医はBTOA患者に対し、夜間のスプリント装着によって期待できる効果(中程度の期間では改善が期待できるが、短期では期待しにくい)を説明しやすくなるであろう。さらに、無作為化対照試験の強いエビデンスに基づく説明によって、患者のコンプライアンスも向上すると考えられる。将来同様の無作為化対照試験が行われれば、有痛性BTOA治療用の夜間スプリント装着の処方が促進され、特に患者のコンプライアンスが改善されるだろう。
しかし、OAの重要な治療目的が2つあることは念頭に置かねばならない。第一の目的は、患者の現在の状態を改善すること、そして第二の目的は、その後の悪化を予防することである。他のリウマチ性疾患と同様、BTOAの2つの主要な臨床症状(疼痛と機能障害)は、疾患の炎症増悪または構造破壊に関連している。炎症再燃に関連した症状は回復しうるが、構造破壊に関する症状は不可逆的であることが多い4。BTOA患者では、第1指間閉鎖によって母指と示指でのつまみ動作が悪化し、これが手の機能障害の原因となりうるが、スプリント装着では(例えば、関節を休ませることで)痛みがあり障害を起こすような炎症悪化の改善という点で有効である。また、スプリント装着は、機械的変形(例えば第1指間閉鎖による)も予防できる可能性がある。
Rannouら2の研究は、OA治療の第一の目的にはうまく対処している。しかし、機能的悪化の予防に関する情報を得るためには、長期間の追跡調査と大規模な試験対象集団による無作為化対照試験が必要であろう。今後、BTOA治療用スプリント装着による疼痛緩和以外についての検討を行わねばならない。
doi:10.1038/nrrheum.2009.214
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