全身性強皮症に対するボセンタン:肺動脈高血圧の長期転帰およびレイノー現象に対する有効性
Nature Reviews Rheumatology
2010年3月1日
Connective tissue diseases Bosentan for SSc long-term outcomes in PAH and efficacy for Raynaud phenomenon
ボセンタンは、全身性強皮症(SSc)における血管障害の病因に関連するとされているエンドセリン-1に対する経口投与可能な阻害薬であり、血管性合併症を有するSSc患者のファーストライン治療として広範に使用されている。ボセンタンは、SSc関連肺動脈高血圧(PAH)に有効であることが知られているが、長期転帰に関するデータは少ない。また、新たな指趾潰瘍の発現を予防することも示されているが、既存の潰瘍のないSScに関連するレイノー現象(RP)を呈する患者においてもボセンタンが有効であるかどうかは、プラセボ対照試験では評価されていない。Rheumatology に最近発表された2件の研究により、これらの適応におけるボセンタンの臨床的および機能的効果に対する知見が提供されている。
1件目の研究は、David LaunayとOlivier Sitbonらが、SScの主要死因の1つであるPAHに対し、ボセンタンによるファーストライン単剤療法の長期的効果を検討することを目的として実施した。本研究のボセンタン療法では、必要に応じてプロスタノイド(prostanoids)およびシルデナフィルを追加した。肺血管センター1施設において、ボセンタンによる初期療法を受けていた連続患者49例を前向きに解析した。ベースライン時、4ヵ月後、12ヵ月後に実施された評価は、身体診察、ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類評価、6分間歩行距離試験(6MWD)であった。右心カテーテルは、ベースライン時、治療後4ヵ月および1年目に実施した。追跡期間(平均23ヵ月)全体で、患者5例が肝トランスアミナーゼ値の上昇によりボセンタンの投与を中止した。このうち3例はプロスタノイド、残りの2例はシルデナフィルに切り替えた。
NYHA分類による心機能および血行動態は4ヵ月後に大幅に改善されたものの、おそらく疾患進行が継続していたためにこの効果は1年後に安定化した。6MWDは改善されなかったが、SSc関連PAHの評価項目としての6MWDの重要性については議論がある。追跡中に患者計23例(47%)が死亡したが、このうち14例はボセンタン単剤療法を受けており、9例はプロスタノイド療法も併用していた。1年後、2年後、3年後の推定全生存率は、それぞれ80%、56%、51%であった。SSc関連PAH患者の1年生存率は、過去の研究において報告された生存率よりも優れていたが、より長期の転帰は改善されなかった。以上の結果は、特発性PAHを有しボセンタンで治療された連続患者103例の比較コホートにおいて観察された結果より大幅に劣っていた(1年後、2年後、3年後の生存率がそれぞれ92%、89%、79%)。
「SSc関連PAHにおいては長期予後がまだ不良であるため、患者管理をさらに改善し、個々の患者の転帰の予測精度を上げる必要があることが示唆される」とLaunayとSitbonは述べている。本研究の結果から、ボセンタン治療後4ヵ月のNYHA機能分類および心係数はそれぞれ独立して全生存に関連しているため、これらの因子を評価することは長期転帰の予測に役立つものと考えられる。
2番目の研究では、Van Anh Nguyenらが、既存の指趾潰瘍のないSSc関連RP患者を対象にボセンタンの有効性を検討した。この単一施設二重盲検パイロット研究では、患者17例を、ボセンタン(9例)またはプラセボ(8例)を16週間投与する群に無作為に割り付けた。4週間おきの受診時に、指趾潰瘍の存在および患者から収集したRP発作データを評価した。16週間後、ボセンタン群で、RP発作の全般的不快感、頻度、持続期間はプラセボ群に比べて改善されてはいなかった。さらに、血管マーカーまたは指趾潰瘍発現の点でも両群で差が認められなかった。特記すべきことに、ボセンタン投与患者において、疼痛の重症度がベースラインから上昇し、プライマリエンドポイントに達するまで持続したことが報告された。そのような上昇はプラセボ群では認められなかった。
このような結果と対照的に、ボセンタン群では、強皮症のHealth Assessment Questionnaire disability index(HAQDI)およびUnited Kingdom Functional Scoreにより評価した機能的能力状態がプラセボ群に比べて改善された。
著者らは、ボセンタンは既存の指趾潰瘍のないSSc関連RP患者に対しては有効ではないが、この患者群において機能に対する有益な効果をより明確に示すためには、より規模の大きな研究が必要であると結論付けている。
本研究の研究者の1人であるKlaus Eisendleは「さらに今回の結果から、SSc関連RPの基礎にある血管機能不全の病態生理学的機序がまだ明らかにされていないことが、今 一度強調される」と述べている。エンドセリン-1は、SScにおける血管障害の病因において重要な役割を果たしていることが示されているが、以上のデータから、エンドセリン -1だけでなく別の因子がSSc関連RPの発現に寄与している可能性があるという仮説が裏付けられている。
doi:10.1038/nrrheum.2010.6
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