長期罹患RAにおける肥満細胞のIL-17発現エフェクター細胞としての新たな役割
Nature Reviews Rheumatology
2010年5月1日
Rheumatoid arthritis New role for mast cells as IL-17-expressing effector cells in established RA
関節リウマチ(RA)患者の炎症滑膜においてインターロイキン(IL)-17Aの産生細胞を探索する研究では、CD4+17型ヘル パーT(TH17)細胞が明らかな候補と考えられている。しかし、Journal of Immunology に発表されたグラスゴー大学(英国)の研究により、長期罹患RA患者においては、この炎症促進性サイトカインを産生する主な細胞がT細胞ではなく、肥満細胞であることが確認された。
「IL-17はRAの発症における重要な炎症促進性サイトカインだとされており、RAや他のリウマチ性疾患に対する抗IL-17抗体に関する臨床試験が進行中である。そこで、長期罹患RA患者の炎症滑膜でのIL-17の産生組織を特定しようと考えた」と本論文の研究責任者であるIain McInnesは述べている。この目標を達成するため、研究者らはRA患者から採取した滑膜組織サンプルを免疫組織化学法と蛍光顕微鏡検査を用いて調べた。その結果、ほとんどのIL-17A陽性細胞はT細胞マーカーのCD3、CD4、CCR6が陰性であることから、炎症滑膜のごく少数のIL-17A陽性細胞だけがT細胞であることが明らかになった。ただし、肥満細胞の特異マーカーである肥満細胞トリプターゼ(MCT)については陽性であった。
長期罹患RA患者の炎症滑膜において肥満細胞がIL-17Aの主な産生細胞と特定されたため、著者らは次に、この細胞にIL-17Aを発現誘導するシグナルは何かを検討した。「引 き続き、われわれはin vitroで、RAにおいて役割を果たすと考えられている種々の刺激に応じてヒト肥満細胞がIL-17Aを分泌することを示した」とMcInnesは述べている。こうした刺激には腫瘍壊死因子、IgG複合体、補体成分C5aおよびリポ多糖類などがある。その他のTH17関連サイトカイン(IL-21、IL-22含む)はこれらの実験で認められなかった。
次に、著者らは肥満細胞がRORC(転写因子であるretinoic acid receptor-related orphan receptor Cをコードする遺伝子)を発現することを見出した。さらに、RORC の発現がIL-17A産生を誘導する因子によって増加し、RORC に対するsiRNAを用いてRORC 発現を抑制すると、肥満細胞によるIL-17Aの発現は阻止されるが、IL-5やIL-6の発現は阻止されないことも明らかにした。その他の遺伝子(RORAやsignal transducer and activator of transcription 3をコードする遺伝子など)を同様に抑制してもIL-17A産生に影響はなかった。このため、ヒト肥満細胞でのIL-17A産生は特にRORCに依存しているようである。
この研究は長期罹患滑膜炎でのIL-17Aの産生源に注目しており、その場合に肥満細胞は重要となるが、早期関節炎では、TH17細胞のほうがより中心的な役割を果たすのであろうか。この疑問に答えるためにはさらなる研究が必要である。
McInnesらは現在、肥満細胞またはその前駆細胞を炎症部位にリクルートする経路、および肥満細胞の活性化を誘発する分子メカニズムを研究している。この研究を通じて「治 療標的の新しいターゲット、ならびに早期から進んだステージ、もしくはより活動性の高い段階へ移行することを理解するために、肥満細胞由来の新しいターゲットやバイオマーカーを特定したいと考えている」と述べている。
この研究の臨床的意義とは何か。McInnesによれば、「RAをはじめとするヒト「TH17」由来疾患において肥満細胞が新たな重要性をもつという研究の新分野を切り開き、それにより既存の細胞ターゲットを広げ、非常に複雑な疾患といえるRAの理解を深めることに寄与することである」と述べている。
2001年以降、炎症性関節炎における肥満細胞の役割に着目して研究を行ってきたMedicine at Brigham and Women’s Hospitalおよびハーバードメディカルスクール(米国)のDavid Lee准教授は、この研究が臨床的に興味深いことを認めており、さらに「非常に重要なのは、これらの研究が、組織に常在するinnateな免疫細胞集団である肥満細胞を、本疾患におけるIL-17の主な供給細胞として特定していることである。この知見は炎症関節でのIL-17の供給細胞について予想されていたものとは異なる」と述べている。
Leeはさらに「RAに用いる治療薬の投与前後で、ヒトの組織における肥満細胞のIL-17A産生を詳細に調べれば、この経路についての重要な情報が得られるであろう。IL-17の誘 発因子と供給細胞を理解することで、疾患におけるこの炎症促進性経路をより効率的にターゲットとすることができよう」と語っている。
doi:10.1038/nrrheum.2010.50
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