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生物学的製剤の免疫原性̶免疫寛容が必要

Nature Reviews Rheumatology

2010年9月30日

Therapy Immunogenicity of biologic therapies—we need tolerance

生物学的製剤投与後、ほとんどに免疫応答が生じるが、これを低減させるための方策は、重要な検討課題となってきている。治療用モノクローナル抗体であるalemtuzumabに対し、寛容を誘導する新しい対策が試みられ、有望な結果が得られた。

薬物に対する抗体が産生されると、分子の機能部位に結合し、その機能を阻害することによって、または免疫複合体を形成し薬剤クリアランスを増加することによって、治療効 果が減弱する可能性がある。抗薬物抗体とTNF阻害薬の効果減弱の関連は、関節リウマチとクローン病で明らかにされている。さらに、治療に伴う有害事象も、抗薬物免 疫応答と関連している可能性がある。

生物学的製剤の免疫原性を低下させるための戦略として、主に、薬物分子の改変が行われている。例えば、マウス由来の生物学的製剤をヒト化すると、免疫原性が大きく低下す る。しかし、完全なヒト化生物学的製剤であっても、免疫応答を引き起こすことがあり、血清中の薬剤濃度が減少し、治療効果が減弱する。したがって、生物学的製剤の免疫原 性を制御する新しい戦略を開発することが重要である。

Somerfi eldら4は、マウス由来の相補性決定領域を持つヒト化モノクローナル抗体、alemtuzumabの免疫原性を低下させるための方策について発表した。alemtuzumabは、 リンパ球と単球のCD52を標的とし、持続的リンパ球減少を誘導することから、慢性リンパ性白血病、皮膚T細胞リンパ腫およびT細胞リンパ腫の治療に利用されている。ま た、一部の自己免疫疾患に対し、臨床試験プロトコールでも利用されている。alemtuzumabの投与は、年1回、3~5日間連日、静脈内投与を行う。

関節リウマチ患者を対象としたalemtuzumabの用量漸増試験では、参加者の63%がalemtuzumabに対する抗体反応を起こし、この薬剤の効果減弱と関連していた。多 発性硬化症患者を対象とした第II相試験(CAMMS223 試験)では、alemtuzumab投与を受けた患者のうち、12ヵ月後には0.5%、24ヵ月後には26.3%に、薬剤に対する 抗体が出現した(アッセイの検出閾値:2,000U/ml)。この抗体はCAMMS223試験ではalemtuzumabの有効性に影響を与えなかった6が、Somerfi eldらは、年1回の alemtuzumab投与を繰り返すうちにこの抗体反応が高まり、治療効果に影響が出るであろうと推測した。著者らは、この影響を中和するために、高用量のalemtuzumabを投与することで薬剤に対する寛容を誘導できるという仮説を立てた。しかし、alemtuzumabを高用量で投与した場合、許容できない有害事象が生じる可能性がある。そこで、非細胞 結合性の変異体(SM3)が開発された。SM3は一箇所の変異以外はalemtuzumabと同一な分子である。この変異体はCD52との結合能が低下するため、マウスモデルで示され ている通り7高用量が投与できる。

Somerfi eldら4は、多発性硬化症患者20例に対し、SM3点滴静注(4時間で450mg)を行ってから1週間後にalemtuzumab初回投与(連続5日間、1日あたり12mg)を 行った。比較としてCAMMS223試験6におけるalemtuzumab投与患者のデータを用いた。13ヵ月間の追跡調査によれば、2回目のalemtuzumab投与( 連続3日間、1日あた り12mg)の1ヵ月後、抗alemtuzumab抗体を有する患者は、SM3投与群ではCAMMS223試験の患者と比較してかなり少なかった(21% vs 74%、P <0.0001)。この研究 では、CAMMS223試験よりも低い検出閾値のアッセイを用いた(444U/ml対2,000U/ml)ため、過去に報告されたCAMMS223群6に比べ、抗alemtuzumab抗体検出頻度が 高かったという説明がなされているが、なぜ検出閾値を変更したかに関する説明はなかった。SM3群の抗alemtuzumab抗体の平均濃度は、CAMMS223群に比べて100倍超低かっ た(3,640U/ml対536,600U/ml、P <0.0001)。SM3 群で頻度の高かった有害事象を、CAMMS223群と比較してみると、グレードI 投与時反応(80.0% vs 98.6%)および感染症(95.0% vs 65.7%)であり、感染症のうち最も頻度が高かったのは上気道感染であった。

本試験の結果は、高用量の非結合性抗体が、次回曝露時の治療用アナログに対する免疫原性を最小限に抑えることを示唆している。非結合性抗体の投与を受けた群では、 感染症がより多く認められたが、著者らは、有害事象リスクの増加は確認されなかったと述べている。事実、高用量のインフリキシマブを投与すると、抗インフリキシマブ抗 体の頻度が低下することが過去に報告されている。高用量インフリキシマブの投与により、インフリキシマブに対する免疫寛容が誘発されたという事実が、今回の知見の原 理であろう。さらに、生物学的治療に加えて免疫抑制薬(メトトレキサートやアザチオプリン)を投与すると、抗薬物抗体の発現頻度が低下する。免疫抑制薬の投与が生物学的製剤の免疫原性に影響を与える機構は明らかにされていないが、ひとつの説明として免疫反応の抑制によって、抗体の産生が低下したことが考えられる。というのも、メト トレキサートやアザチオプリンは、抗体産生免疫細胞の増殖を阻害できるからである。

免疫原性を低下させるための戦略として考えられているもう1つの方法は、治療用抗体上のT細胞エピトープの修飾である。T細胞に非自己であると認識させないような分子操 作は、より進化したヒト化と考えることができる。この技術を用い、治療用抗体上にある、抗薬物抗体反応を引き起こす免疫原性ペプチド断片(T細胞エピトープ)を同定して修 飾する。しかし、この戦略について考えるべき重要なことは、免疫原性を低下させるための修飾後も、蛋白質が安定で活性を維持していなければならないということである。

Somerfi eldらの知見は、生物学的製剤の免疫原性を低下させていくための興味深いステップである。しかし、この戦略に関するいくつかの点を明らかにするために、今後 の研究が必要である。例えば、この寛容がどの程度の期間維持されるかは不明であり、ほとんどの患者では完全寛容が認められたが、一部の患者では部分的な寛容しか達成さ れていない。また、抗薬物抗体によって効果減弱した状況でこの戦略を検討することも有用であろう。このような状況は、今回の研究の対象とはなっていなかった。さらに、こ の方策の有効性と安全性を確認するための、より大規模な試験が必要である。

生物学的製剤の免疫原性を理解し、免疫原性に対処するための新しいアプローチを開発することは、生物学的療法を最大限活用することに役立つ。Somerfi eldら4が報告し た戦略は、長期使用が想定される生物学的治療で、抗薬物抗体を低減させた興味深い一例である。初めての試みの成果は、この分野の将来の臨床研究を奨励することになる。

doi:10.1038/nrrheum.2010.153

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